デザインの見方

イノベーションは一番シンプルな顔つきでやってくる

  • 石井 原

Justin Sullivan/ゲッティイメージズ

カラフルな背景と、音楽に合わせて踊りまくる白いイヤホンをしたシルエットの人物。2003年頃、アップル「iPod」の「Silhouette(シルエット)」キャンペーンのテレビCMを見たときの衝撃は、今もよく覚えています。素直にかっこいいと思い、感動しました。当時入社9年目くらいで、世界の広告表現に最もアンテナを張っていた時期。日本の広告とは色々な意味で対照的で、羨ましくもあり、悔しい気持ちにもなりました。

たとえば、当時手がけていたテレビCMには、商品の姿をしっかりと見せるための寄りのシーン、通称「プロダクトカット」を入れていました。だけど、iPodのテレビCMには入っていない。アップルが表現していたのは、iPodの機能やサイズではなく、音楽の本質的な楽しみ方。シルエットと白いイヤホンのコードをシンボルにして、iPodの価値を伝えていたのです。

ナレーションもなく、何もかもがそぎ落とされているけれど、アップルのiPodの広告であることは一目瞭然。しかも、見ているとワクワクして、音楽が聴きたくなってくる。日本のメーカーの多くが音質や機能などのスペックで差異化を図っていた時代だったからこそ、何も語らない表現は斬新でした。

この広告から読み取れるのは、世代や男女、国籍、音楽のスタイルにとらわれないアップルの姿勢。ジェンダーレスやダイバーシティといった考えが浸透する約20年後の今を予見していたかのような表現です。

1990年代の終わりから2000年代初頭は、インターネットの普及と共に...

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