一人暮らしの女、ましてや職業がアイドルの女にとって窓をみることはほぼない。
夜はカーテンをみっちり締めるし、結構冷めているので他所様の暖かな窓の灯りを見ていいなぁと思うことも特にない。姉と姉の犬2匹とイレギュラーに2年間暮らし、結婚を機に出て行ってしまった直後は暗い部屋を寂しく思ったこともあるが、上京して10年を余裕で超えた今、窓の灯りへの感情は無だ。
しかし、私には趣味がある。換気だ。部屋の空気を入れ替えること……そうなると、自然に窓と関わることになる。私の部屋、リビングに大きい窓が1つ。寝室に大きい窓と小さい窓が1つ。大きい窓は洗濯物を干す時しか開けないけれど、浴室乾燥機があるので近頃は換気の時以外閉め切っている。寝室の小さい窓は鉄格子になっているので網戸さえ閉めていれば安全だろうと常に開けている。雨が降ってもどんなに暑くても寒くても、外気を常に取り込みたい。とにかく換気をしたいのだ。
ある夜、大雨が降った。私はすぐリビングの大きな窓を開け、嬉しくて嬉しくて、網戸も開けた。普段網戸は部屋の灯りに誘われた蚊や蝿などが入らないよう閉めているが、大雨なら網戸を開けてしまっても虫が入ってこない。うきうきで雨の音を聞きながら新鮮な空気を吸う。大満足である。階数も高いので防犯もあまり考えず、そのまま寝てしまった。
翌日。昨日の大雨が嘘のような、晴れ。
仕事に出かけ、夜帰ってきて、しばらく寛いだところで異変に気付いた。
なんかいる。
明日捨てようと思っていたゴミ袋の下に、なんかいる。
がさ、がさ、がさ。
女の一人暮らしと、一番相性の悪い奴が、いる。
ものの数秒のうちに思考が巡って巡って巡って巡って、あああああああ!網戸、開けてた!台風で、大雨で、排水溝に逃げて、水位、上がって、晴れて、そのまま排水溝、伝ってきて、登ってきて、この、彼奴が普通来れない階数に、うああああああああ、どうすんだ私どうすんだあああああああああああ!!!
……頭に血が上ったまま、爆音でBPMの速い音楽を流し勢いで奴を仕留めた。はぁ、はぁ、はぁ。ああ、なんてバカなことをしたんだろう、窓なんて開けなきゃ良かった、なんで網戸開けちゃったままなのよ、もうほんとバカ!と自分を責め、半泣きでゴミ捨て場に葬る。R.I.P.名も知らぬ君、運が悪かったね。
部屋に帰りギッと窓を睨む。もう閉めている網戸を何度も確認してギチギチに閉め、暫くはこの窓を開けないことを誓う。部屋の灯りに誘われてくるのは本当の意味での悪い虫だけだわねと自分に嫌味を唱え、寒くなるまで換気の趣味を封印するのであった。
とある夏の日の恐怖体験。
自分の砦に招かざる客がいることの恐怖、ありますよね。蚊と蝿に対しては灯りを逆に利用して逃すテクニックを習得しました。
インスタントのコーンスープ、ストレッチ、終わりのないパズルゲームからの寝落ち。