締め切りと私のチキンレースもいよいよ大詰め。もうこれ以上逃げることは許されない。そこまで追い詰められないと席につけない私がやっと、MacBookを開いたのは22時で、今日寝るまでにどのくらい書けるかで明日からの生活が決まる。
どうか、どうか書き進めてくれよと思いながらキーボードを叩き始めると、夜遅くに仕事をしている自分に興奮し始める。夜なのにコーヒーを飲みながら、机に向かう自分 is 社会人て感じで、散らかった家の中も不思議と格好良いものに見えてきた。
そうやって自己陶酔しながら書いて、書いてとやってるうちに、時刻は3時になろうとしていて、あぁ、流石に小腹がすいた。適当に餅でも焼いて食べるでもいいけど、せっかくだしコンビニに行ってみようと思った。飲み会帰りにふらふらと、何故かおにぎりを買ってしまうあのコンビニに、冴えた頭で今日は行こう。
サッカー選手が着てるみたいなダウンコートで全てを隠して外に出ると、外は当然まだ真っ暗で、向こうにぼんやりコンビニの灯り。この後書く展開を頭の中で呟きながら歩く商店街に、人の姿はない。誰もいないこの道は今、私が作ったシムズみたいで、どんな物語でも作れるような気持ちになった。
コンビニの中にはビーサンを履いた先客がいて、こんな真冬にビーサンってことは、めちゃくちゃ家が近いんだろう。カゴに入ってるのはコーヒーとお菓子。わかるよと思いながら、私もコーヒーを手に取る。先に会計に向かった彼の跡を追うように列に並んで、去っていく背中を見つめながらおでんを頼む。出ていく彼はコンビニの目の前のマンションに入っていって、ピンポン!と正解の鐘が脳内で鳴った。
私がコンビニを出るとちょうど、3階の部屋がふわっと灯る。あなたの居場所がわかる。きっと今頃コートを脱いで、コーヒーを開けたりしているんだろう。それからあなたは、何をする?誰もいない商店街を見て、彼は何を思っただろう。灯りのともった彼の部屋は私のシムズにないはずで、つまり世界は私のものじゃない。想像力に身を任せている間に消えてしまったあれこれが身体の中にともっていって、潜りすぎるのも問題だなと恥ずかしくなった。
世界には、私の知らない窓があって、毎秒ついたり消えたりしているのだ。だから書くのか、それでも書くのかわからないけど、何はともあれもう一仕事。私は、私に用意された小さな窓から精一杯目を凝らす。どんなに目を凝らしても、全てを見ることはできないってことを忘れないようにしながら身を乗り出す。
お揃いのコーヒーを違う窓辺で飲みながら、彼はどんな世界を作っているんだろう。知る術はない。でも、灯りの数だけ誕生している。今この瞬間も、灯りの中から何かが生まれ続けている。
空が白んでいくにつれて増えていく灯りの中で、静かに私は電気を消した。この窓を見た誰かが、バトンを受け取るようにスイッチを押してくれたらいいなと思う。そうやって、生まれ続ける世界がいい。
色んな人がいるっていう事実が、いつも私を助けてくれます。