その昔、六本木に深夜に開店するフレンチレストランがあった。真夜中にフレンチ──物珍しさも手伝い、同店はアフターで訪れたホステスと男性客や、深夜まで働くマスコミ関係者らによく利用されたが、ある日、同店には珍しいタイプの男女の客が訪れた。

2人は見た感じ、20代前半。六本木には似つかわしくない真面目そうなカップルだった。

深夜2時に訪れ、リザーブ席に案内されると、フルコースを注文した。終始静かに食事する２人。メインを終え、デザートに移るその時だった。突如、店が暗くなり、店内にスティーヴィー・ワンダーの「Happy Birthday」が流れる。厨房からギャルソンがバースデーケーキを持って現れると、お客の何人かが歓声を上げた。ケーキはリザーブ席の女性の前に置かれ、男性が促すと、彼女は緊張しながらも一息で吹き消した。店内は一斉に拍手。だが、メインイベントはここからだった。

男性がポケットからジュエリーケースを取り出し、ふたを開けると──