訪れたくなる!観光を促す技

旅行者の安全を保つ「観光危機管理」と 安心感をもたらす危機コミュニケーション

訪日外国人旅行者数がコロナ禍以前の状態へと徐々に戻りつつある現在。自治体には訪れた人々の安全を保ち、安心して旅してもらうための危機管理が求められる。コロナ禍を経て、注意事項や対応策に変化はあるのか。

文/髙松 正人 JTB総合研究所 客員研究員 観光レジリエンス研究所 代表

今年3月、政府は新たな「観光立国推進基本計画」を閣議決定し公表しました。コロナ禍後の「持続可能な形での観光立国の復活に向けて」をテーマとする国の観光基本計画で、「持続可能な観光地域づくり戦略」の一部として「旅行者の安全の確保」が記載されています。安全で安心できる観光地域・観光事業は、持続可能な観光の推進に不可欠であることが明らかにされているのです。

危機管理・危機コミュニケーションの必要性

では、なぜそれほどまでに「旅行者の安全の確保」が重要なのでしょうか?

理由のひとつに、旅行者と観光事業者に影響を及ぼす災害や危機の増加と激甚化が挙げられます。この数カ月間でも、沖縄で長期間停滞した台風6号、お盆休みの日本列島を直撃した台風7号、西日本での豪雨・水害、マウイ島をはじめ世界各地で発生した山火事など、旅行者や観光事業が影響を受ける災害が続きました。

一方、新型コロナウイルス感染症が感染症法上5類に移行したことや「水際対策」の大幅な緩和で、国内外からの旅行者数は急激に回復してきています。日本政府観光局(JNTO)によると、2023年の1~7月の訪日外国人は約1300万人で、前年の約19倍、コロナ前の2019年同期間比約67%まで回復(「訪日外客数(2023年7月推計値)」日本政府観光局(JNTO)より)。観光客・旅行者が急増しているのですから、災害・危機によって影響を受ける旅行者の規模は、今までよりはるかに大きくなっているといえるでしょう。

一方で、人口減少や高齢化が急速に進む地域では、観光による経済波及と社会の活性化への期待がさらに高まっています。それだけに災害や危機によって観光客が減少した時には、一日も早く観光客の流動を元に戻し、観光事業を回復させることが、社会全体の災害復興につながります。危機発生直後から、タイムリーかつ正確に発信・提供される情報は、観光復興を大きく左右します。危機コミュニケーションは観光危機管理の最も重要な要素です。

危機管理における観光事業者と行政の役割

観光危機管理において、観光客・旅行者と直接接している観光事業者と、自治体やその他の行政機関などの役割は大きく異なります。

宿泊施設や観光施設・交通機関など観光サービスを提供する観光事業者の最大の役割は、その場にいる観光客・旅行者の安全を確保し、安心を提供することです。外国人を含む観光客に身を守るよう指示し、避難場所に誘導して安全を確保することは、現場の事業者の第一の役割です。その上で、災害・危機時に必要とする様々な情報をその場で提供することが、観光客・旅行者の安心につながります。

それに対し、自治体や行政機関の役割は、災害・危機発生時に地域の現場に直ちに駆けつけて、観光客の安全確保や...

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