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広報担当者の事件簿

15年前に起きた突然の災害犠牲になった母への思い〈後編〉

    【あらすじ】

    県庁の広報課職員である宮城健太は、高校時代に土砂災害で母を失った。その経験から、危機対策統括委員会で職員の危機管理意識を煽り、県知事の花形誠司にも熱く訴え、危機対応マニュアルの作成を任され完成させた。そして突然起きたマグニチュード8.1、震度7強の大地震。そのとき、宮城のマニュアルは……。

    全員でこの街を立ち直らせる

    足が前に進まない。目の前のビルは原形を留めていない。八階建ての建物だったはずだ。一階にいくつかの飲食店があって先週ランチを食べたばかりだった。これは夢なんかじゃない……。宮城健太は目の前の現実に身体が震える。

    地元新聞社の記者と打ち合わせを終え、急ぎ県庁に戻るため近道の裏道を歩いていたとき、地震が起きた。咄嗟に道端で身をかがめたが、あまりの揺れに初めて“死”を意識した。

    目抜き通りに目をやると何棟かのビルが倒壊するのが見えた。いつもならあの道を歩いて戻っていたはずだと思うと全身に鳥肌が立ち恐怖が押し寄せてきた。庁舎に戻った途端、身体の震えが止まらない。「大変なことになった……」周囲を確認すると、昼前までは車が忙しなく行き交っていた幹線道路が激しく波打つように歪み、乗用車がそこらじゅうに転がっている。建物の一階にフロント部分から突っ込んでいる車や追突の衝撃でクラクションを鳴り響かせている車もある。けがをしてうずくまる人、地べたに寝かされている人もいた。歩道には割れたガラスが散乱し、折れた電柱から電線が垂れ下がっている。さっきまでの日常が跡形もなくなっていた。

    宮城は危機対策統括委員会で熱弁をふるい、職員の危機管理意識を煽ってきた。県知事の花形誠司にも熱く訴え危機対応マニュアル作成を任され完成させた。だが、目の前の巨大地震に対して初動で“やるべきこと”ができていない。

    「ふー」ひとつ深呼吸をする。不謹慎だとは思うが、“このときのために今まで必死にマニュアルをつくってきたんじゃないか”と自身を鼓舞し、庁舎に足を踏み入れた。


    「対策本部は知事室隣!」「電話がつながりません!」「マグニチュード八・一、震度七強です!」「津波がくる!沿岸地域はすぐに高台避難を呼びかけろ!」「川にも津波が上ってくるぞ!誰か河川事務所にすぐ連絡しろ!」広報課に戻るとそこここで叫ぶように大声が飛び交っていた。「全員、すぐ対策本部に移動!」テレビには緊急放送が映し出されている。

    「本日、午後一二時五三分、△△沖を震源とするマグニチュード八・一、震度七強の地震が発生しました。今後五メートル以上の津波が予想されます。高台などの安全な場所に急いで逃げてください。…

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「まさかのクライシス発生!あなたならどう対応する?」 小説で学ぶ、危機広報。