時流の把握と即対応 危機下だからこそ問われる広報の本質

変化に合わせて、視点をズラす

  • TMオフィス代表取締役 PRプロデューサー 殿村美樹

Withコロナの時代においても、企業の評判が上がるような情報発信をしたいもの。社会不安が高まっているタイミングで、既存のサービスの視点を変え、上手に発信するための考え方のヒントを「ひこにゃん」「うどん県」などを生み出してきたPRプロデューサーに聞く。

新型コロナウイルスは瞬く間に世界を席巻し、私たちを未曾有の脅威に陥れました。こんな事態は想定外すぎて、広報するにも何を、どうやったらいいのか、戸惑っている人は多いと思います。

そこで、東京一極集中の逆風に苛まれながら、3,000件以上の地方PRをこなしてきた私の極意「時代に合わせて、視点をズラす方法」をご紹介します。決して広報の王道とはいえませんが、逆風の時ほど抜群の効果を発揮します。

逆風に逆らわず、目的を忘れず

最初にひとつ、様々な時代を超えた千年の都・京都の秘話をご紹介しましょう。

京都に「等持院」という寺があります。室町時代を治めた足利将軍家の菩提寺なので、かの有名な足利尊氏の墓があるのですが、びっくりするほど小さいのです。もしかしたら一般の人の墓より小さいかもしれません。

私は女子大生の頃、初めてこの墓を見て「あり得ない」と思いました。足利尊氏といえば歴史の教科書に太字で出ていた偉人だから、徳川家康の墓のように大きいはずと思い込んでいたのです。それで生意気にも、当時の住職に詰め寄りました。

「足利尊氏の墓がこんなに小さいわけありません。もしかしたらこれは、観光客に汚されてもよいレプリカで、本物は東山あたりに隠しているのではないですか」

すると住職は笑って、「いえいえ、これは本物ですよ。足利尊氏が評価されたのはつい最近のこと。亡くなった当時は南北朝時代のキッカケをつくった“天皇に刃向かう逆賊”だったので、とても敵が多かったのです。そんな中で大きな墓をつくったら壊されるでしょう。だから小さいのです。寺は墓を守るのが仕事ですからね。しかし天に昇った尊氏から見ると、この墓を中心に庭と池を配しているので、日本一美しい墓に見えるのですよ」と答えてくれました。

この秘話は、時代の逆風に逆らわないこと、それでいて真の目的を忘れないことが大切と教えてくれます。実はこの話、どの観光パンフレットにも書かれていません。おそらくどんな時代になっても墓を守るためでしょう。しかし京都を取材すると、このように時代を生き抜く秘話が山ほど見つかります。

私はやがてこの考え方を地方に生かし「逆風に逆らわず、少し視点をズラすことが、地方PRの秘訣だ」と確信し、視点をズラすPRを繰り返すようになりました。すると、その仕掛けは時に大きく広がり、想定外の世界につながるなど様々な変化を見せたのです。

PRの常識をズラすと・・・

たとえば、かつて「彦根城築城400年祭」のPRで、主役を「彦根城」から、当時は添え物に過ぎなかったマスコット「ひこにゃん」に...

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時流の把握と即対応 危機下だからこそ問われる広報の本質

新型コロナウイルス感染拡大により、社会の様相は様変わりしました。しかし、いかに未曽有の事態といえど、顧客、従業員、報道機関などあらゆるステークホルダーとの良好な関係構築こそが、広報の本質。その大前提は変わりません。今回は、2020年5月号に続き、新型コロナウイルスの感染拡大を受けての広報対応の変化を調査。(1)メディアリレーションズ (2)インターナルコミュニケーションの2つの観点から、広報業務の「いま」 とその課題を紐解きます。

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