危機管理広報 失われた信頼を取り戻す

なぜ起きた?どう防ぐ? 2024年の広告炎上から学ぶ教訓

  • 山口真一(国際大学)

SNSの普及により、企業広告の炎上リスクは年々高まっている。特に文化・歴史やルッキズムなど、ダイバーシティに関連したテーマの炎上リスクは大きく、その予防と対策により慎重さが求められる。本稿では2024年の事例から、予防と対処の実践的手法を考察する。

2024年も様々な広告が炎上している。本稿ではいくつかの炎上事例を取り上げながら、リスクを予防する方法と、いざ炎上した際の適切な対処方法についての考察を行う。

文化・歴史への理解不足

Mrs. GREEN APPLEの楽曲「コロンブス」のミュージックビデオが、2024年6月12日に公開された直後から批判を受け、炎上した。「コロンブス」は、Mrs. GREEN APPLEが、日本コカ・コーラ社による「Coke STUDIO」キャンペーンのために書き下ろした新曲。同曲が流れる「コカ・コーラ」の新テレビCM「Coke STUDIO 魔法のはじまり」編の本編とメイキング映像が、5月31日よりYouTubeで、6月3日よりテレビCMにて放映されており、その後にYouTube上でミュージックビデオが公開された流れだ。

問題となったミュージックビデオは、コロンブスやナポレオンといった歴史上の人物に扮したメンバーが猿の着ぐるみを着た演者にピアノを教えたり、人力車を引かせたりする演出を含んでいた。そのため、先住民を猿に見立てているように見える、人種差別的であるという批判を多く受けたのである。

事態を受け、翌日13日にはミュージックビデオの公開を停止し、レコード会社ユニバーサルミュージックの所属レーベルと所属事務所が連名で、歴史や文化的な背景への理解に欠ける表現が含まれていたとして、謝罪文を発表した。またMrs. GREEN APPLEのボーカルも声明文を発表し、意図とは異なる形で伝わってしまったことを認め、謝罪した。その上で、日本コカ・コーラもキャンペーンに関連する動画を削除し、広告展開を中止するという対応を取った。

本件のポイントは、制作過程で歴史的および文化的な背景に対する理解があまりにも不足していたという点である。テーマはセンシティブなものであり、特に海外からも批判を受けるリスクがある内容だった。そのため、多様な視点を持つチームメンバーや専門家と制作過程で積極的に巻き込み、事前に表現内容が誤解を招かないか、多角的な視点から検討するべきであった。実際、本件はBBCなどの海外メディアにも取り上げられ、大炎上となった。

その反面、その後の全体的な対応は迅速で適切だったといえる。ミュージックビデオ公開後のわずか半日で炎上したことを受け、その翌日にはミュージックビデオの公開停止と謝罪文の発表を行った。これはリスク管理として評価できる点であり、早期の対応はアーティストや所属事務所側のさらなるイメージの悪化を防ぐ意味でも適切であったといえる。実際、このような早期の対応により、この炎上はかなり早く収束に至った。

ただし、本件が日本コカ・コーラのキャンペーンソングであり、企業や事務所など多くのステークホルダーが関わっていることを踏まえると、謝罪にあたりクリエイター側ばかりが矢面に立った点は問題視される。炎上が起こった場合には、一番目立つアーティストやクリエイターに真っ先に批判の矛先が向かってしまう。こうした状況を踏まえると、本来、炎上には組織として対応し、アーティストやクリエイターを守る姿勢を示すことが何よりも重要である。…

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どんな企業でも不祥事や災上は起こり得ます。危機が発生した際に、イメージダウンを最小限に抑えるためには、どのようなコミュニケーションが求められているのでしょうか。本特集では、2024年に起きた不祥事の事例を分析、教訓とし危機を乗り越えるための広報対応とリスク対策について考えていきます。

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