【あらすじ】
危機対策統括委員会で危機対応マニュアルの必要性を訴える宮城健太の姿に、渋面をつくる危機管理統括部の職員たち。そのとき、県知事の花形誠司は宮城に具体策について話すよう促す。ひとしきり話を聞き、宮城にマニュアル作成を進めるよう指示を出した花形は、「申し訳なかった」と頭を下げる。その真意は……。

“無関心”という不幸
危機という事態に遭遇したとき全体を取り仕切るはずの危機管理統括部が、広報課の一職員に恥をかかされた。
「したがって本県における危機に対する意識ならびに災害発生時の体制は甚だ不十分であると思えてなりません。県民の命を最優先としたマニュアル作成にすぐにでも取りかかり、SNSによる防災はもちろん災害発生時の避難行動、被災対応等を積極的に発信していくべきだと考えます」広報課の宮城健太の声が会場に響いたとき、危機管理統括部長の東郷久成をはじめ危機管理統括部の職員は苦い顔をした。
「何にも知らんくせに……勝手なことほざきやがって」新川優士が渋面をつくる。ほかの職員も同じ感情を纏った表情でいる。宮城が持ち出した15年前の土砂災害は、山の斜面を削った地元の建設会社の怠慢で起きた事故だと危機管理統括部は考えていた。もちろん、事故を無視してマニュアルをつくったわけではないが、当時のことを知る職員はすでに退職し、県職員になって間もない者も多く、災害の恐怖を肌で感じている職員は少ない。ここ数年は話題にもあがることはなく、職員の記憶からすっかり薄れている。
県全体の危機管理の方向性を決める危機対策統括委員会の場で委員会メンバー以外が〝演説〞したことはなかった。宮城は上司である広報課長の岡川哲雄を説得し、危機管理統括部に毎日のように顔を出し「もっと現実的で県民の方々に認めてもらえるようなものをつくりませんか。災害が起きたとき我々がすぐに動けて、県民の方々にすぐ伝えられるようなものをつくっていきましょうよ」と必要性を訴え続けた。
「だったらお前がやってみろ」危機管理統括部長の東郷久成の言葉に宮城が反応した。これが本音か。宮城は役所という城から出ようとしない公務員のやる気のなさに怒りを覚えたが、硬直した縦割り組織を変えられるチャンスだった。「分かりました、私がやります」「災害なんて俺たちが勤めている間に起きるのか?」と揶揄された。俺たちは誰のために存在しているんだよ。腐っているな。宮城は独り言ちた。
危機管理統括部が作成していた自然災害、事件・事故を想定した対応マニュアルは、とても現実的なものとは言えなかった。文字を並べただけの読み物に過ぎない...