活動報告

第一回研究会

2013年10月に開催されました第一回大学ブランド戦略研究会の概要についてご報告いたします。

1. 第一回研究会の主な内容

  • テーマ: 「学内情報の活用・公開とブランディング」
    山野宏太郎氏 (三菱総合研究所 科学・安全政策研究本部イノベーション戦略グループ)
  • テーマ: 「ブランディングと広報、広告活動」
    梅本春夫氏 (前・関西学院大学 経営戦略研究科教授 / 大広九州ソリューション開発局長)
  • フリーディスカッション

2. 山野氏の講演「学内の情報の活用法とブランディング」から

大学や研究機関のリサーチやコンサルティングを行う立場から以下3点についてお話を頂戴しました。

(1)大学のブランディング

在校生をはじめ、受験生やその後ろに控える親や教師、OB、留学生、他大学と、大学の顧客は多様化しています。大学内では多様化する顧客に対してそれぞれの組織がバラバラに対応している現状があり、広報には、情報把握のための学内全体を巻き込んだ体制づくりや、中長期的に大学全体の戦略や計画を視野に入れた情報発信が求められます。全学的戦略として広報活動に取り組む体制を構築した明治大学の事例などを参考に、広報が大学ブランディングにどのように関わっていけばよいのかを検証しました。

(2)情報公開・大学ランキングへの対応

情報公開や情報利用の動きは、今後ますます加速すると考えられます。現在議論されている「大学ポートレート」などの仕組みに大学広報はどのような対応をすればよいのでしょうか。大学ランキングは偏差値だけでなくブランド力や国際力など多様化しており、ランキング結果が大学間の連携といった意思決定にまで影響を及ぼすようになりました。しかし、ランキングの基本データが信頼できるとは限りません。自校のデータと照らし合わせて、妥当な結果かどうか確認し、場合によってはランキング側にデータを示し正当な評価がなされるように働きかけることも必要です。
また、ランキングを上手く利用してブランド・アピールを行っている事例も紹介されました。

(3)IRと連携した大学広報

IR (Institutional Research)は、大学に関する情報の収集・分析・活用に一貫して関与し、大学の意思決定や戦略決定に資する情報を経営層に提供します。広報の役割は、IR活動にブランディングの視点を意識してもらうように働きかけることです。学内情報をどのようにブランディングに役立てるか、具体的なリサーチデータの事例を見ながら検証しました。

*総括

  1. 広報は広告宣伝に留まらない。自学がどのように見られているかというブランド意識を、学内でしっかりと醸成する必要がある。
  2. 加速する情報公開・情報利用の動きのなかで、守りの姿勢だけでは時流に乗り遅れる。自ら情報を集め、比較・分析し、場合によっては独自の情報を発進する攻めの姿勢も大事。
  3. 広報とIRの連携体制をできるだけ早く構築することで、大学ブランディングと教育の質向上との相乗効果を生み出すことが重要。

*情報公開や情報収集のあり方についてメンバーから質問や意見がでました。

  • 情報公開や情報収集への対応の折り合いをつけるよりも、まず学校単位でのコミュニケーション上のブランド構築をすべきだと思う。
  • 大学は学部ごとに情報収集していて、全学で把握していない。全体の情報を蓄積する仕組みづくりが必要。
  • 「情報収集の仕組みづくりをしていますか?」という質問に対して、どの大学も仕組みの必要性を感じており、ニュースリリースの活用やポータルサイトの運営など、さまざまな方法で情報収集の仕組みづくりに取り組んでいました。

3. 梅本氏の講演 「ブランディングと広報、広告活動」から

梅本氏が研究する「ブランド連想構造」の考え方と、その連想構造を抽出する「ラダリング法」によって、ブランド構成要素の価値のはかり方や今後どのくらいまで価値が高まるかを推計する方法を講演。
関西学院大学が実施した2012年の卒業式のブランド広告の事例を紹介しながら、大学ブランド・コミュニケーションの課題と、コミュニケーション効果をあげる方法を検証しました。

関西学院大学の卒業式広告は「ブランド連想構造」解析を用いて企画されました。まず、在校生、教職員たちへのインタビューとラダリング法調査、さらに量的把握のためのアンケートによって構造解析を実施。その結果から、関西学院が標榜するグローバル人材教育「世界市民の育成」とそのゴールにスポットライトをあてました。卒業式当日の朝刊をはじめさまざまな媒体で展開された卒業生へのメッセージは、卒業生ばかりでなく、OBや在校生、保護者から一般の人にまで、ツイッターやSNS上で大きな反響がありました。

ブランド・マネジメントとは、「ブランド連想」つまり名前から何を連想させるかをマネジメントすることです。ブランドをマネジメントするのは大学側ですが、ブランドはそれを感じる顧客側に存在します。顧客の連想をコントロールすることは難しいので、顧客視点でブランド価値を判断しなければいけません。大学側が持つブランド構成要素は、歴史や学生の質、教育技術などであるのに対して、ブランドを築くのは個としての学生やOBであり、彼らの活躍がブランドに大きく影響すると考えられます。
顧客が見ているのはブランドのほんの一側面なので、大学は、自分たちをどのように見て欲しいのかを決めてブランドをデザインしていくことが重要です。

*メンバーより主に卒業広告に関する質問が出ました。

「戦略的に新聞という媒体を選んだのでしょうか?」
戦略的に新聞を選びました。メディアとして信頼性が高い新聞は、じっくり読ませてメッセージを伝えることができます。
「在学生にブランド価値を意識させるにはどうすればいいでしょうか?」
在校生は学生生活を楽しむことに集中しているので難しいと思います。これから巣立つという卒業生や大学を去ったOBはブランド価値について深く考えます。ターゲットとタイミングが大切です。

4.全体ディスカッションより

雑誌やランキングに振り回されるのは本末転倒ですが、ランキングには「自分を映す鏡のひとつ」という側面もあります。自分が人からどう見られているのか、案外わからないものです。鏡にどのような姿が映っているか、広報に携わる者は知っておく必要があるでしょう。過大評価がいい方向に導くこともある反面、過小評価は悪い方向に導くこともあります。「火を消す作業」は広報としてやっておくべきではないでしょうか。

いくらランキングで上位を占めていても、ランキングが実態を反映しているとは限りません。実態を伝えたいけれど、大学が一方的に広告を出してもなかなか伝わりません。大学のブランディングでは、「教育の場を通じて、学生にどのような価値を与えるかという“ゴール”を、相手が理解しやすい言い方でコミュニケーションに落とし込んでいく」ことが必要です。また、「ひとりの学生の活躍が新聞など社会的に信用されている媒体に取り上げられる方が大学ブランドのイメージアップになる」という意見も出ました。

ボランティアやサポーターという形で、広報活動をはじめさまざまな学校業務に学生が協力する体制を構築している大学や、広報誌や学校ホームページに学生を取り上げることで広報ファンを醸成するなど、学生が参加することで大学ブランドや広報活動への意識を高める活動をしている大学が複数ありました。このような活動を通して帰属意識の高い優秀な学生を見出し、学校職員としてリクルートするところまで視野に入れている大学もあります。

中長期的計画としての広告戦略の立て方、広報の構成員をはじめ学内で広報の重要性を認識させる方法、人材育成、広告効果の見せ方等々、大学広報が抱える課題をどのように解決していけばよいのでしょうか。今後の研究会で検証していく予定です。

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