活動報告

第二回研究会 「大学ブランド戦略研究」

2013年11月に開催されました第二回大学ブランド戦略研究会の概要についてご報告いたします。

1. 第二回研究会の主な内容

  • テーマ: 「超高齢社会における大学のブランディング 海外と国内の先駆的事例に学ぶ」
    松田 智生 氏 (三菱総合研究所)
  • テーマ: 「立命館学園ブランド広報戦略の事例紹介」
    岩井 琢磨 氏 新谷 朋子 氏 (大広)
  • フリーディスカッション

2. 松田氏の講演「超高齢社会における大学のブランディング 海外と国内の先駆的事例に学ぶ」から

超高齢化社会の新産業創出や地域活性化の専門家の立場から、高齢化社会における大学ブランディングについてお話を頂戴しました。

現在日本の高齢者人口は全人口の25%で世界第1位。これから660万人もの団塊世代が続々とリタイアして地域社会デビューを始めます。
松田氏は高齢者の増加をピンチと捉えるのではなく、チャンスとして捉えることを提言。海外と国内の事例を紹介しながら、大学がシニアを意識することで得られる効果や、どのように大学ブランディングにつながっていくかを検証しました。

幸せな老後を過ごすには、体の健康だけでなく頭の健康も必要です。「知的刺激を脳に与え、頭を元気にする役割を担う場が大学である」と松田氏は述べます。
先進的取り組みとして、アメリカで約80カ所設置されている「大学連携型リタイアメント・コミュニティ」を紹介。マサチューセッツ州のラッセル大学の敷地内にあるラッセル・ビレッジの入居条件は年間450時間以上の授業を受けることですが、入居待ちが出るほど人気だと言います。
コミュニティのシニアたちは、大学で歴史や文化を学んだり自分史をまとめたり、若い学生と交流したりしながら活発に生活しているようです。中にはシニアが講師やアドバイザーとなり、現役時代に培った知識や経験を学生に伝授する場を設けている大学もあります。教えることがシニアにとって生き甲斐となり、若い学生は知的好奇心に刺激を受けているようです。

大学連携型リタイアメント・コミュニティは「四方一両得」だと松田氏は言います。シニアや学生は老化防止や知的好奇心の刺激。大学は学生増加による収益の安定が得られ、世代間交流・地域貢献がブランディングにつながり、自治体は地域活性化や医療費の削減の効果が得られる。企業には教育やヘルスケア、住宅などの新ビジネス創出へとつながります。

日本でも、昨年、大学連携型リタイアメント・コミュニティ分科会が発足。すでに新しい取り組みを開始している自治体や大学の事例が紹介されました。
2008年に開校した立教セカンドステージ大学は、定員が100人で授業料は年間30万円。50歳以上から入学できます。競争率は1.5倍。若い時に何らかの事情で大学へ進学できなかった人など、学ぶことに意欲を燃やしている人が集まっています。シニア学生の授業に取り組む姿勢は真剣で、現役学生にとって良い刺激となっているようです。

松田氏は「日本の大学に欠けているのは、キャリアを考える機会」と言います。だからこそ「そこが大学ブランディングに資する」と。
シニアを意識することは、大学の教育や研究や地域貢献の力を大きく向上させます。地方の大学にとって地域の街おこしや問題解決を担うことは非常に重要です。それに役だつ人材がシニアなのです。

*総括

  1. 超高齢化社会はピンチではなくチャンスである。
  2. シニアの高次欲求を満たすことが現役学生に良い影響を与え、シニアにとっても学生との交流が刺激となる。
  3. 大学が地域の中心になる。
  4. 多世代交流が活発な成熟した社会となる。
  5. OBやOG、地域のシニアがキャリア・アドバイザーとなり、自分のキャリアや知見を学生に伝えることが、大学のブランドとなる。

*講演を終えて、大学にシニアを取り込むことへの賛成意見や具体的施策への質問がでました。

「高齢化をチャンスにしている立教のセカンドステージ大学が参考になった」「公開講座とどう違うのかもっと具体的に知りたい」「生涯学習のようなものではなく、もっと緩やかな発想で取り組めばよいのだろうか」「どういう人材がキーマンとなっているのか」といった実践を前提とした質問が多く出ました。そして、キーマンを教員ではなく、元銀行マンなどのOBが担っている立教の例や、民間委託で運営している海外事例などが紹介されました。
また、松田氏から、「新規事業には批判や批評がつきものなので、トップを含めた全員が腹をくくり、実現へ向けて取り組んでいくことが重要だ」というアドバイスもありました。

3. 岩井氏・新谷氏の講演「立命館学園ブランド広報戦略の事例紹介」から

企業ブランディング、コミュニケーション、ビジョンの設計を手がける大広のコーポレート・コミュニケーションセンターが、立命館学園の広報と共にブランディングを進めた事例を、「全体の設計」については岩井氏が、「具体的な取り組み」については新谷氏が紹介、大学広報に外部チームを巻き込んだブランディング事例について検証しました。

立命館学園は2020年の創立120周年にむけ、「Creating a Future Beyond Borders (自分を超え、未来を創る人材を育てる)」というビジョンのもと、「2020年までにアジアトップレベルの評価を確立する」というブランド目標を打ち出しています。絶対的な差別化を行うためには、企業と同じようにブランディングが必要であるということで、2012年に外部チーム(大広)の導入に至りました。

ブランディングにあたり、まず「学園広報Message」として「Beyond Borders」というコンセプトを設定しました。
岩井氏は、ブランドの基にあるのは「何をめざしているのか」というビジョンであり、そのビジョンの背景には経営的・事業的目標があると説明します。
経営的・事業的目標のもと、それを達成するビジョンを明確に打ち出し、鍵となるファクトを発掘。そのファクトによって伝えるべきメッセージが決まり、それをメディアを使ってどのように発信していくか設計していきました。
さらに、学園評価(達成率)、ブランド評価(学園ブランド)、活動評価という3つの視点による成果評価体制を構築しています。

立命館学園広報室では毎月定例会が行われており、広報室のメンバーに加え、アドバイザー、クリエイティブスタッフ、メディアリレーション(広報活動)担当などの外部スタッフが随時参加しており、パートナーチームのコアスタッフがこれを統括してプロジェクトを進めていく体制を整えています。

具体的な取り組みとして最も注力した点は、「差別的価値の確立」と新谷さんは述べます。
立命館とはどういう学園なのか、具体的なファクトを大学広報スタッフと共に洗い出しました。
ワークショップでファクトを整理して、立命館がめざす人材「Beyond Borders」を軸に、「70億分の1の君へ」というメッセージを作り、ボーダーを超え新しい挑戦に挑む学生や教職員のエピソードを交えたムービーを制作、それを学園の中で共有するところから始めました。
ムービーは入学式や校友会なのでも公開され、学生、OB、父兄から「感動した」という感想がたくさん寄せられました。また対外的にもメッセージが広がるようにYouTubeの立命館チャンネルにもアップされています。
洗い出したファクトは、学生の活躍、研究内容、教育プログラムといった情報発信に必要な項目ごとに大分類し可視化できるカードで蓄積、広報課の中で共有できるように情報整理を進めています。
また、どこに、どのタイミングで、どのような形でどのファクトを発信していくのか、2015年までのロードマップも設計。記者とのコミュニケーションの取り方や常に情報提供する活動の推進など、ブランディングのプロならではの視点の取り組みも行っています。
前出のように、学園評価、ブランド評価、活動評価という成果評価の仕組みを活用して、それぞれのレビューを次のアクションにつなげています。

*総括

すべての起点は「どういう学園になりたいのか」というブランドメッセージだが、そこをスタートにするのではなく、「それは何のためなのか」というビジョンや事業指標と紐づけて設計することが重要。
評価も、一つひとつの施策で評価するのではなく、プロジェクト全体として評価をすることが大事。

講演を終えて、外部スタッフ導入に関して活発な質疑が行われました。

外部スタッフ導入やブランディングのプロの手法について質問が出ました。
前回に引き続き、広報の評価の難しさが話題となり、立命館学園の3つの評価の仕組みが具体的にどのような方法で評価をしているのか質問が出ました。大広からは、立命館学園が大学の信頼性(子どもを入学させたいかなど)といった指標を定めてアンケートを実施し、得点化して評価していることなどが説明されました。
また、参加者で最近外部スタッフを導入しはじめた学校の方は、外部スタッフと大学広報の住み分け法や、中長期計画の中でどのようにプロジェクトを位置づけていくかといった具体的な質問も出ました。

4.フリーディスカッション

フリーディスカッションでは、広報の評価や、大学の将来のビジョンの設計方法についての意見交換が行われました。

「ブランド評価は低くないのに、受験者数に反映されていない。入試広報とブランディング広報はどのようにつながるのでしょうか」という切実な訴えが出ました。そもそもブランドコミュニケーションと販促コミュニケーションではレンジが違うため成果が一致しにくいものです。そこで広報のゴール指標を「入学したい学校」に設定し、ブランドの連想構造をつないでいくという手法が紹介されました。

やはり立命館学園の評価方法への興味が高く、詳細な説明を求める声が多くあがりました。
調査時の注意点として、「イメージ」ではなく「事実ベース」で質問をしていく、例えば「楽しい学園生活が送れそう」ではなく、「学生数が多い」「教育プログラムが充実している」など具体的な内容を質問していくことなどが紹介されました。
さらに、ブランド調査の比較する3つの指標が紹介されました。①大学が重視している項目と顧客ニーズが一致しているのか、その兼ね合いを評価する。②評価されているのは、自分たちが重視しているところかどうか。③誰が評価しているのか、第一志望とそうでない人の違いはどこにあるのか。この3点を比較することで、何を伝えれば効果的なコミュニケーションができるのか、特定できるようにしているということでした。

一方、ブランディングを考える上で、5年後、10年後のビジョンをどのように設計すればよいのでしょうか。シニア層をターゲットとした教育プログラムは、日本でも今後発展していくと考えられます。では、具体的にどのように取り組んでいけばいいのでしょうか。
学生が減り続ければ、学校の競争は激化していきます。その中で生き残るには、例えばフロリダ大学は「トータルフィットネス」というように、「自分の大学が選ばれる理由を一言で表現できなければいけない」と松田氏は言います。ラッセル大学は、「年間450時間受講する」という条件をつけてハードルを高くして、「達成感」を与えることで人気となりました。東海大学の「チャレンジセンター」は、学生が考えたビジネスプランや起業に対して、湘南キャンパス周辺に住む元商社マンなどのシニアがアドバイザーとなり共に考える「多世代共同の学びの場」です。自校の魅力や価値を一言で表現して、それを徹底的に先鋭化させていくことが大事なのです。
今後ますます厳しくなる競争を勝ち抜く上で、ブランディングは非常に重要なります。通常業務もある中で新しい施策を遂行するのは時間的・体力的にも並大抵のことではないでしょう。情熱が求められます。あるいは、立命館学園のように外部スタッフと組むのもいいかもしれません。
実際、大学内で普通と思われていることが、外部の人間が見ると宝だったということもあります。そういう「あるものを探し出すこと」が大事です。今あるものがチャンスとなる可能性はいくらでもあるのですから。

TOP PROMOTIONS 販促会議 販促促進に関わる方へ 購読はこちら

広告・宣伝業界の情報ポータル アドタイ

宣伝会議
公式アカウント

twitter

facebook

このページのトップへ