活動報告

第三回研究会

2013年12月に開催されました大学ブランド戦略研究会カンファレンスの概要についてご報告いたします。

1. カンファレンスの主な内容

  • 研究会報告 テーマ: 「大学を取り巻く環境変化とブランディングの意義」
    森 卓也 氏 (三菱総合研究所)
  • 第1部講演 テーマ: 「学園ビジョンに基づく、ブランド広報戦略」
    大場 茂生 氏 (立命館大学 広報課長)
  • 第2部講演 テーマ: 「大学におけるWEBの活かし方」
    月成 信裕 氏 (大広九州 ソリューション開発局 WEBプロデューサー)
  • パネルディスカッション

    パネラー
    森 卓也 氏 (三菱総合研究所)
    大場 茂生 氏 (立命館大学 広報課長)
    梅本 春夫 氏 (前・関西学院大学 経営戦略研究科教授/大広九州ソリューション開発局長)

    モデレーター
    上条 慎(「広報会議」編集長)

2. 森氏による研究会報告「大学を取り巻く環境変化とブランディングの意義」から

大学ブランドをめぐる環境変化と、その対応策についてお話を頂戴しました。

森氏は、大学ブランドをめぐる環境の変化を、ブランド価値の「評価軸の変化」「評価者の変化」「コントロールの難しさ」という3つの視点から解説します。
大学入学者のうち、一般入試の比率が50%台に低下した今、偏差値に代表される「入試難易度」は大学ブランドではなくなってきました。また、大学の価値は伝統だと言われていましたが、今は国際化を謳う大学が企業の注目を集めるなど、伝統がなくてもブランドを築く勢いのある大学が出現しています。留学生や社会人、シニアなど、新しい市場を取り込み大学のブランド価値を高める動きが盛んになり、大学の価値が多様化するなかで、大学ブランドは、これまでの受験生や高校教師、保護者だけでなく、地域を含めた様々な人々から評価されるようになりました。
また、ソーシャルメディアの普及で大学生や教員の情報発信機会が増えました。大学生・教員が個人で発信する情報のコントロ―ルは不可能であるため、大学のイメージダウンになるような情報が発信され拡散していく危険性も高まっています。
このような環境変化に大学はどのように対応すればよいのでしょうか。

 森氏は、第2回研究会でも取り上げられた立教セカンドステージ大学などの事例を紹介。シニア向けの講座は比較的安い授業料で開催されることが多いなか、立教セカンドステージ大学は高額な授業料にもかかわらず高い人気を誇っています。人気の理由は、カリキュラムもサークル活動も、シニアのセカンドステージにつながるという部分に徹底的にこだわっている点です。森氏は、「大学のブランディングでは、ロゴのデザインなど表面上のことを考えるのではなく、教育・研究・社会貢献といった全ての活動で実態を作っていくことが重要である」と説明します。
大学外部にブランド価値を発信する前に、学内でブランド価値を浸透させておくことも重要です。例えば、誰に聞いても「本学は○○○の大学です」と同じ内容をこたえられるまでになれば、外部にもそれが浸透していくはずです。森氏は、「その鍵を握るのはIRだ」と言います。IRとは「Institutional Research」すなわち自学の情報を集め、総合的に把握する部署です。そこに集まった情報から、どういう価値がある大学なのかをしっかりと打ち出すためには、IRと広報の連携が不可欠だと言います。
また、大学ブランドは学生や周辺住民を含めた全員で共創していくもので、「一緒につくる仲間を集める場をつくることが広報の役割である」と明言しました。

*総括

(1)大学のブランディングを巡り3つの環境変化が起きている。

  1. これまで「大学価値」を表していた評価軸が変わった。
  2. 大学価値を「判断する」主体が多様化した。
  3. 大学価値を大学自身でコントロールすることが難しくなった。

(2)今後のブランディングにおける3つの鍵

  1. 「志」を掲げ、教育・研究・社会活動を連動させる。
  2. 学内に散在する情報を集約・連結・活用する。
  3. ブランドを共創してくれる仲間が集う場を作る。

3.大場氏の講演「学園ビジョンに基づく、ブランド広報戦略」から

立命館大学は、第2回研究会で大広の岩井琢磨氏と新谷朋子氏が、企業と連携した積極的な広報活動の取り組み事例として紹介しました。
今回は大学側の視点から、企業をブランドパートナーとした広報活動のお話しを伺いました。

 立命館大学は、2006年に立命館憲章を制定し、2020年のビジョンを策定した立命館ミッションに基づいた広報活動を行ってきました。立命館憲章というミッションとビジョンを、心を震わせる言葉で表現することがブランドメッセージと考え、「Beyond Borders」という言葉を中心に、ポスター、動画、新聞広告などで、その言葉を象徴する活動をしている学生や教員を紹介。「人を紹介すること」を通してブランドメッセージを伝えることに力を注いでいます。
ブランドメッセージは、学内広報誌、ポスター、ウェブサイト、YouTube立命館チャンネル、交通広告や雑誌のタイアップ記事など、トリプルメディアを活用して浸透をはかっています。大場氏は、「大事なのはアーンドメディアで終わらず、オウンドメディアとペイドメディアも含めたコミュニケーション。メディアサイドとは、『共に未来社会図を描き社会を作っていく関係を築くこと』が重要」だと言います。そのため社会的影響力のあるイベントはメディアと連携して開催します。また、メディアに向けて、各種取組を紹介した6~8ページの独自資料を作って配信し、メディアとの相互理解を図っています。広報において、ステークホルダーとの相互理解を築くことは、大きな柱です。メディアに限らず、関西学院大学、関西大学、同志社大学、立命館大学の関西4大学で学長フォームを毎年開催するなど、志を同じくする他大学とも積極的に連携をはかっています。

立命館大学がブランディングパートナー企業(大広)に期待するのは、広報活動の戦略・計画・成果評価を可視化し、共に推進していく姿勢と手順の提供です。立命館としても初めての試みでしたが、現在はパートナーとしての協働関係を築けていると思います。成果評価については露出記事分析のほか、独自に設定した評価軸に基づいた教師・保護者・受験生に対するアンケート調査などを行い、1年間の広報活動の振り返りと改善検討に繋げています。
しっかりした成果評価を出すことで、学内の理解が得られるほか、思っていたほど評価が高くなかったり、理解されていないことがわかったり、「自分たちに思い込みが多いことに気付いた」と大場氏は言います。客観的に評価することで、問題点を洗い出し、思いを届けるにはどのような表現で、あるいはどの媒体で伝えればよいかといったPDCAが回るようになりました。
「広報は未来を作っていける仕事」だと話す大場氏は、理念に基づいた広報活動を展開すれば、それぞれの大学の個性、つまり社会的役割の違いが明らかになり、それぞれの役割を持つ大学同士が連携することで、より良い未来創造に協働できるはずだと確信しています。

*総括

  1. 広報活動は理念を起点に行う
  2. トリプルメディアを活用して浸透をはかる。
  3. 企業パートナーと協力して評価を可視化しPDCAを回す
  4. 志を同じくする他大学やメディアと連携して、より良い未来創造に協働していく

4.月成氏の講演「大学における4の活かし方」から

月成氏には、大学向けソーシャルメディアの中から、facebookの活用法を解説していだだきました。

facebookが他のソーシャルメディアと大きく異なる点は実名であること。そのため、発信される情報の信頼性が高いこと。日本でのfacebookユーザーは現在2200万人で、右肩上がりに伸びています。男女比は半々ですが、男性に比べ女性の方が増加しています。18歳~24歳の比率は24%と、年代的にもバランスよくカバーしているようです。ユーザーの67%が毎日利用しており、習慣として生活に溶け込んでいることがわかります。

では、facebookをどのように大学の広報活動に活用すればよいのでしょうか。

まず、facebookの「いいね!」やファン数は、指標の1つではありますが、パイの影響が大きい点に留意しておかなければなりません。 月成氏は、facebookの指標として、話題になっている数をファン数で割った「エンゲージメント率」を紹介。コンテンツの内容でいかに共感を呼び、エンゲージメントを高めていくかが大事だと説明します。

facebookは、性別、エリア、年齢、学歴など、細かくセグメントしてピンポイントで情報を届けることができます。また1人のユーザーは平均100人の友だちを保有しているため、1つの「いいね!」が100倍で拡散していく計算になります。

ニフティのリサーチデータによると、facebookならではの特性は、情報への接触を繰り返すことで、例えば商品が欲しくなる(83%)、家族や友だちに伝えたくなった(69.3%)という態度変容がみられることです。この態度変容をうまく働かせることができれば、大学に好意的な印象をもってもらい、その情報が拡散していく可能性が高くなります。

ユーザーの態度変容を、全国1位の「いいね!」数(28,954)と、大学最大級のエンゲージメント率(12%:平均の2倍)を獲得している関西学院大学のfacebook運用事例で解説しました。

  1. 2010年10月 facebook開設当時、記事配信は不定期で、記事はウェブサイトの更新記事を貼り付けるだけで、「いいね」の広がりはなし。
  2. 2011年8月 写真つきのfacebookオリジナル記事の投稿を始め、過去最高の「いいね!」数に。
  3. 2011年9月 3度目のオリジナル記事の内容は「学内での結婚式を受け付けます」というシェアされやすい内容で、「いいね」のほか、コメントがつく。共感を呼ぶオリジナル記事の有効性を確認したのか、そういう記事が増えていく。
  4. 2011年12月 部活情報など、サブタイトルつきの記事が登場。ファン層が急増し、平均「いいね」数は100を超える。
  5. 2012年6月 これまでの記事を分類し、反応が良かったもののカテゴリーをつくり最適化。タイムスケジュール的にカテゴリー投稿を開始。現在は、「いいね」や「コメント」よりもハードルが高い「シェア」が増えてきている。

関西学院大学の事例から、facebookで効果を出すためには、カテゴリーを分け、それをメインにしたオリジナル記事を投稿することが重要であることがわかりますが、月成氏は、大学の場合、学生よりのカテゴリーにかたよる傾向があることを指摘。その記事は誰に対して発信するのか、ユーザー属性の設定をきちんと行ったうえでカテゴリーを設定していくこが重要であると説きます。

大学には情報資産がたくさんあるにもかかわらず、ソーシャルメディア上に上手く出すことができていない大学が多いのが現状ですが、「情報資産を整理した上で出していけば、これから伸びる可能性は大きい」と月成氏。まずfacebookから始めて、そこでノウハウを蓄積できてから、ラインなどに転用して行くのがお勧めだということでした。

*総括

  1. 大学のソーシャルメディア活用ではfacebookがお勧め。
  2. facebookでは、ユーザー属性の設定をしたカテゴリーに基づいたオリジナル記事が重要
  3. 学生よりの情報に偏らず、大学の膨大な情報資産をきちんと分類してから出す。
  4. facebookのノウハウを、ラインなどに転用していく

パネルディスカッション

ブランディングの成果をどのように見て、それをどのように説明するのか。大場氏は「図や数値化して可視化することが重要」と言います。森氏は、「数値や図の客観性とともに、相対的な評価も必要」として、学内だけでなく、全体の中でどうなのかを見る必要性を指摘。また、奈良先端大学が、自ら「教員1人あたりの外部資金獲得で日本1位」というオリジナルの指標をつくり、日本トップクラスの研究機関であることを訴求した事例を紹介。自分の大学が望む姿を指標で打ち出すことができれば、それが評価につながっていくだろうと話しました。第1回研究会で関西学院大学のブランディングについて発表をしていただいた梅本氏は、関学が持つ要素のうち、どれがブランド価値を上げるのか、独自開発した特殊な解析法で計算して洗い出した結果「世界市民」の数値が一番高かったので、それを中心にすえブランドメッセージを構築し、どの媒体で情報を発進していくか決めていった経緯を説明しました。

立命館大学では情報発信の際のターゲティングはどのようにしたのでしょうか。大場氏は「まずインナーの気持ちを1つにする必要がある」と考え、教職員、学生、校友、父母等とのコミュニケーションを図っていきました。それに対して森氏は、「学生に伝えるということは、外に伝えることと同じで、アウターとインナーは一体化している。そういう意味でも、まず学生にきちんと伝えることは大事」で、学生は口コミで情報を拡散してくれる強力なサポーターで、OBやOGを含む学生にどういう情報を伝えるかが良いイメージが拡散していく鍵であり、「そこをうまく使いこなせるかどうかに長期的なブランディングの評価指標があるのかもしれない」と述べました。
一方、梅本氏は、米国の経営学者デイヴィット・アーカーの「ブランドアイデンティティは外部に向ける罠」という考え方を紹介しました。ブランドイメージにアイデンティティの影響を与えようと思った時に、そのアイデンティティを形成するインナーの人たちが同じ思いを持っていなければ外には伝わらない。アイデンティティを共有するために、ブランドアイデンティティの半分は内側に向けなさいという考え方です。森氏が言うように、学生がインナーかどうかの議論はあるかもしれませんが、まず、学生や教職員全体でブランドアイデンティティを理解することが重要であるようです。

ブランド・マネジメントとは、「ブランド連想」つまり名前から何を連想させるかをマネジメントすることです。ブランドをマネジメントするのは大学側ですが、ブランドはそれを感じる顧客側に存在します。顧客の連想をコントロールすることは難しいので、顧客視点でブランド価値を判断しなければいけません。大学側が持つブランド構成要素は、歴史や学生の質、教育技術などであるのに対して、ブランドを築くのは個としての学生やOBであり、彼らの活躍がブランドに大きく影響すると考えられます。
顧客が見ているのはブランドのほんの一側面なので、大学は、自分たちをどのように見て欲しいのかを決めてブランドをデザインしていくことが重要です。

立命館大学は企業とパートナーシップを組むことでどのような変化があったのでしょうか。大場氏は、パートナーシップを組む前は、学内から来る膨大な要請に対して、何をどう広報するか、日々頭を悩ましていたそうです。しかし、外部パートナーと議論を繰り返して取り組むことで、目指していた「理念を幹に据えた広報」に近づくことができたとのこと。これまで以上に、「立命館はなぜこれを広報するのか」という「WHY」の視点で広報計画を進められるようになりました。その結果、部署内での目的意識が整理・共有され、戦略的・計画的な取り組みが進み、広報の仕事が楽しくなったそうです。
森氏は、立命館大学のように、大学が外部パートナー企業と「一緒に考える」というフェーズが不可欠で、丸投げしたり、自分たちの考えを押し付けたりせずに、お互いの思いをつたえるためじっくり話をして仲間になっていくことが成功の秘訣だと語りました。梅本氏は、ブランディングを考えてもらうためのツール「ブランドプラットフォーム」で、存在意義、コアとなる価値、ブランドの理想の顧客イメージ、ブランドの典型的な表現方法という4つの問題を提示するそうです。その問題解決のために議論を行うのは、自分たちではなく、当事者である企業や学校だと述べました。
大学がブランディングをスムーズに進めるためには、各プロセスで誰が何を決めるかを明確にしておくこと、トップの理解と強力が必須であること、それぞれのセクションのキーパーソンを巻き込むなど、参加型で進めていくことが重要であるという意見でまとまりました。

*パネルディスカッション後の質疑応答では、大場氏へ「地域への広報活動の考え方」が質問されました。それに対して大場氏は、地域貢献は大学の重要なミッションの1つであり、大学が知的資源を活かして地域に貢献することは重要である。一方で地域貢献を通じて参加している学生が地域社会に成長させてもらっており、大学と地域はウイン・ウインの関係となっている。大学を介して地域が活性化したり、学生が育ったりする、大学とはそういう社会的な機能を有する機関なのだという認識を踏まえつつ、広報活動に取り組んでいるとのことでした。

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