コミュニケーションが生まれる空間 Vol.2 平田 晃久氏

Creator File

  • センターラインアソシエイツ 松井るみ氏
  • トランジットジェネラルオフィス 岡田光氏
  • BOOK APART運営者 三田修平氏
  • 極地建築家 村上祐資氏
  • ツクルバ 中村真広氏/村上浩輝氏
  • 木村 英智氏
  • 豊嶋 秀樹氏
  • 木村 英智氏
  • SOLSO代表 齊藤 太一氏
  • 構造エンジニア 金田 充弘氏
  • スペースコンポーザー 谷川 じゅんじ氏
  • トラフ建築設計事務所
バックナンバー
  • 中目黒マドレーヌ店主 田中 真治氏
  • フラワーアーティスト CHAJIN氏
  • AuthaGraph代表 鳴川 肇氏
  • 昼寝城 店主 寒川 一氏
  • ランドスケーププロダクツ代表 中原 慎一郎氏
  • スタンダードトレード代表 渡邊 謙一郎氏
  • ブック・コーディネイター 内沼 晋太郎氏
  • 建築家 谷尻 誠氏
  • 茶人 木村 宗慎氏
  • 建築照明デザイナー 矢野 大輔氏
  • 音響演出家 高橋 琢哉氏
  • 一級建築士 中村 拓志氏
  • 建築家 加藤 匡毅氏
  • デザインチーム KEIKO+MANABU
  • 建築設計プロデューサー 小野 啓司氏
  • インテリア・エクステリアデザイナー 佐野 岳士氏
  • 建築家 木下 昌大氏
  • 建築家 猪熊 純氏
  • 大学教授 手塚 貴晴氏
  • 建築家 二俣 公一氏
  • 建築家 梅村 典孝氏
  • 建築家 長岡 勉氏
  • 建築家 平田 晃久氏
  • 建築家 迫 慶一郎氏
平田 晃久氏 平田 晃久氏

(ひらた・あきひさ)

一級建築士1971年大阪府生まれ。1997年京都大学大学院工学研究科修了後、伊東豊雄建築設計事務所。2005年平田晃久建築設計事務所設立。東北大学特任准教授(せんだいスクール・オブ・デザイン非常勤講師)、京都大学などで非常勤講師。JIA新人賞、空間デザインコンペティションなど多数受賞。

Presented by YKKap

「からまりしろ」をつくる

 コミュニケーションは人が自然としたくなってするものであって、建築家が強制的にさせるものではありません。建築ができること、できないことをしっかり区別するよう意識しています。よくあるのは「出会いの広場」などと名付けたはいいものの、誰も集まらずに空疎な空間になってしまったケース。建築家がつくるのは、あくまでも空間という認識で、人の関係性を完全に規定することはできないと思っています。

 僕が手がけた事例のなかでは、住宅のプロトタイプとして設計した「イエノイエ」があります。1階に共有スペースがあり、2階部分に3つの個室空間がある構造で、その個室にはそれぞれに異なる凸凹を持った屋根が付いています。3つの屋根を持った家です。住んでいる人同士は一つの建物の中に一緒にいるという感覚はあるけれど、独立した屋根と部屋によって、お互いの距離感も保てる状態ができます。現代的な感覚では、ただ距離が近い、接触機会が多いというだけではなく、ほどよい程度の距離感を保てる状態を人は居心地よく感じるのだと思います。

 僕ら建築家は人と人との交流そのものはつくれないけれども、異なる人同士が一緒にいても不快ではないと感じられる共存空間はつくれるはず。そうした場があって、コミュニケーションが発生すると考えるべきではないでしょうか。

 これは僕が提唱している「からまりしろ」という考え方にも関連してきます。「からまりしろ」とは、空間や建造物に周辺の環境と「からまる」ことができる「のりしろ」をつくるという考え方。生物の世界ではタンパク質のようなミクロの世界から、森のようなマクロの世界まで、あらゆるものが絡まりあって連鎖しています。建築も同じように、建物単体としての美しさや機能性を追求するだけでなく、その連鎖も考えるべきだと思っています。「イエノイエ」の屋根は、まさに「からまりしろ」の考え方を表しています。もともと屋根は、水が高いところから低いところに流れることで生まれたかたちをしている。自然と強く関係しているのです。屋根の生みだす空間の居心地のよさは、自然物の持っている豊かさに起因しています。連鎖がからまりある余地、からまりしろを多く持った自然物には、コミュニケーションにつながるヒントが多くあるのです。

ジャングルのような状態を建築でつくる

 東京都渋谷区につくった「SARUGAKU」は、複数の建物が組み合わさることで構成されている商業施設。一つひとつの建物が山のように連なっていて、建物と建物の間を人が歩いたり、壁面に商品を飾ったりできるようになっています。看板や商品、植物、人、そこにある雰囲気が組み合わさってはじめて全体像が見えてくる建物なんです。建物がつくりだす、いわば「地形」のようなものに対して人やものが溢れていく状態がつくれたらと設計しました。建築家はつい建築物としてフラットで美しいものをつくりたくなりますが、つるんとしたものだととっかかりがない。人が触れたり、寄りかかれたり、からまりしろの多い建物の方がコミュニケーションも生まれやすい。

 建築物そのものだけに発想を終始させてしまえば、閉じ込められた内部空間ができあがるだけですが、建築家は、街全体として豊かさを追求できる可能性も持っている。街には、和風、フランス風など個人の好みの異なる建造様式が並んでいます。多くは建物内で完結し、コミュニケーションが閉じこもってしまっている状態。建物同士の関連性や、間の空間の活用などには大きな可能性を感じます。

 赤羽の小高い丘の上につくった集合住宅は、一つのカタマリのなかに12戸が共存しているイメージでつくりました。実は赤羽は地形が豊かな土地で、いたるところに山谷があるんです。この建物のある丘の向こうにも別の丘があって、ひだ状の地形を形成しています。それらの丘の一つであるかのように、この住宅も設計しました。新しい街の風景をつくることも建築家の使命。街の持つイメージから着想したこの建物に影響を受けて、次の建造物が生まれ、さらなるつながりや連続性が生まれていってほしい。

 ジャングルには多様な生物が一つのスペースに存在しています。一方で同じ面積であっても砂漠に生物は少ない。近代の建築は、この砂漠のようなつるつるとした状態をつくりあげてきました。美しい一方で、たくさんのものが共存できる場ではかったんです。特定の生物が生きていける小さな環境のことを生物学的ニッチといいますが、僕はそういうニッチのようなものがたくさん共存することに面白さを見出しています。

「ブレーン」2011年6月号より

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「イエノイエ」。横浜トリエンナーレのインフォメーションセンターとして建てられた住宅のプロトタイプ。

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「イエノイエ」の1Fの共有空間と2Fの個室スペース。

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「イエノイエ」の2Fを見上げたアングル。

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「sarugaku」。

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「alp」。

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「吉岡ライブラリー」。

Photo by :広松  美佐江(Ruijing Photo) 当サイトについて