(なるかわ・はじめ)
東京藝術大学修士課程修了。VMX Architects、佐々木睦朗構造計画研究所を経て、2009年 AuthaGraph設立。同年、ICCでの展覧会「オープン・スペース2009」にて、「オーサグラフ世界地図」を公開。11年、東京都写真美術館での展覧会「映像を巡る冒険」において「世界史地図・クロノマップ4700」を公開。11年、日本科学未来館による常設展示「ジオ・コスモス、ジオ・パレット、ジオ・スコープ」の基本設計、実施監修を担当。主な受賞に、JIA卒業設計競技金賞、サロン・ド・プランタン賞など。
オーサグラフというのは、地球など球面の空間を長方形の平面に書き写す、一種の空間表記の方法で、この手法によって私が制作したのが「オーサグラフ世界地図」です。現在みなさんが最もよく目にする地図は「メルカトル図法」という投影法によって制作された、440年も前に発明されたものなのですが、例えばグリーンランドがオーストラリアより大きく見えてしまっていたり、南極大陸の形がひしゃげて見えたりします。この地図が開発されたのは欧米列強が植民地へ進出していた時代ですので、植民地が多数存在していた赤道付近の地理関係は比較的正確に描けている。それで不便はなかったのかもしれません。特に南極や北極には、面白いものなんて何もないと認識されていましたから。でも現在、南極にはオゾンホールがあるし、北極には油田があることがわかっています。しかし「メルカトル図法」による地図では、そのあたりの地理がいまいち正確に把握できないんです。
そこで私が開発したのが、このオーサグラフ世界地図です。陸地の面積比と形状がほぼ正確に表記され、かつ形や距離のゆがみもかなり低減されているという特長を持っています。どう制作したかというと、地球の面積を96等分し、その面積比を保ったまま正四面体に変換します。そしてその正四面体を展開させると、面積比が等しいまま長方形の地図にできるわけです。
この地図のもう一つの特長は、一枚一枚を縦横に並べて、限りなくつないでいくことができることです。これにより、世界のあらゆるポイントを中心にして、地図を切り出すことができ、それによってこれまでと異なる世界の認識の仕方が可能となります。21世紀の世界は特定の中心を持たない、あらゆる国の人々とコミュニケーションを図ることのできる空間です。そんな時代を象徴した地図ではないでしょうか。
オーサグラフ世界地図は、縦横に限りなくつないでいくことができるわけですが、何も同じ年代の地図を並べるだけでなく、時間軸をずらした地図を並べることもできるわけです。どういうことかというと、例えば長方形の中に、横8、縦12の計96個の地図を並べるとします。そして一番左上を紀元前2600年の地図にし、一番右下を現在の地図にします。そして右へ移動するにつれて50年ずつ時間が進んでいく。すると、4800年という長い時間軸を含んだ世界を、長方形1枚で見ることができます。
これで何がわかるのかというと、例えばある時期のモンゴル帝国はすごく巨大な面積を有していますが、長いこと存続はせず、あっという間に分裂しています。一方でローマ帝国は、面積時代は広大ではないのですが、何年もの間存続し続けている。そこで、モンゴル帝国とローマ帝国でそれぞれ、すべての時代の面積を足してみると、ローマ帝国の方が大きくなるんです。つまり帝国の面積×時間で、その帝国の歴史的な重要度を視覚化できるのです。
オーサグラフとは、球体の空間を四角い平面に書き写す、一種の空間表記の方法であるわけですが、もちろん地球以外も球体に対しても応用できます。例えば宇宙という空間もひとつの球体としてとらえることができますから、この手法で平面化すれば、宇宙という広大な空間を一枚の平面図で俯瞰してみることができます。それからHIVウイルスも球体ですので、平面化してみると、何か新たな発見があるかもしれません。あらゆる環境というのはすべて球体として認識できますので、すごく小さなものからとても巨大なものまで、この手法を適用することで、そこに新しいコミュニケーションの可能性が見えてくるのではないでしょうか。
「ブレーン」2013年2月号より