(みた・しゅうへい)
2012年に移動式本屋「BOOK TRUCK」を始動し、13年には横浜の大倉山に「BOOK APART」をオープン。その他にもSONYの本屋「Reader Store」の運営サポート、馬喰町の飲食店「イズマイ」のブックセレクトなど、さまざまな形で本の販売に関わる。
2012年3月、移動式の本屋BOOK TRUCKを始めました。それまで一般的な書店で働いている中で、本屋の品揃えや店のあり方は、地域のお客さんの層に大きく左右されると感じていました。つまり地元の人々に求められる本を提供するべきであって、求められていないのに自分が売りたいだけの本を置くというのは、成立しづらい。そうすると、自分が売りたいものと、地域に求められるものにズレが生じます。そこで考えたのが、自分が移動することで、その場所に応じた本を販売すれば、自分の欲求も満たされ、お客さんの求める本を提案することもできるということです。
小さい頃、近所に移動図書館が来ていた記憶があって、それがイベント感があって子どもながらにうれしかった。そんなイメージで始めたのがBOOK TRUCKです。これまでは屋外マーケットなどのイベントに呼ばれて出店することが多かったのですが、例えば毎週月曜に公園に行くといつもいるような、紙芝居屋さんのような形でやっていきたいと思っています。
2年弱やってみて感じたのは、当初考えていたように品揃えを場所によって最適化するためには、本の母数を増やさないといけないということ。それから、移動した先々でお客さんから「普段はどこに行ったら本を買えますか」と質問されることも多かった。そこで、特定の拠点を構えて在庫を持ち、行く場所に応じてその中から本をピックアップするのがいいのではないかと考え、13年10月、神奈川県大倉山にある集合住宅に、BOOK APARTをオープンしました。
住宅用の物件なので、当然キッチンや寝室などの部屋が備えられていますが、キッチンには料理関係の本を置くように、それぞれのシーンに合わせた提案の仕方をすることで、より生活と地続きのものとして本を受け入れてもらえると思っています。
なるべく敷居を低くして、「本を読みたいけど何を読んだらいいか分からない」といった距離感の人が、ここで何かを得て帰れる空間にしたいと思います。例えば映画「スター・ウォーズ」が好きな人なら、絶対好きになると思う本があっても、届いていなかったりする。本が好きな人は自分で探すことができますが、そうじゃない人でも楽しめる本屋にしたい。そういう人たちへ本を届けるための手段として、移動したり、生活のシーンに引き寄せて本を紹介したりしている。こちらからアプローチすることで、少しでも多くの人が求める本を手にできればいいなと思っています。
「ブレーン」2014年2月号より