(やの・だいすけ)
建築照明デザイン+建築照明写真事務所yanopic.代表。1983年東京生まれ。2006年武蔵野美術大学造形学部空間演出デザイン学科卒業。同年ライティングプランナーズアソシエーツ入所。09年照明文化研究会照明探偵団事務局長、同年キャンドルナイト表参道代表。10年建築照明デザイン事務所yanopic.設立。同年調布キャンドルナイト設立。
照明デザイナーは光を用いて空間を設計する仕事ですが、「光ありき」で設計を考えることはありません。必ず最初に「闇ありき」で考えます。必要なところに、必要な分だけ光を落していく。そうして、無駄のない光の空間を作り出すのです。設計するときは、まず図面を紺色の紙に印刷します。それが闇です。そこに色鉛筆を使って光を足していく、というのがいつもの工程です。ではどういう考え方で光を加えていくかというと、光によって人がどう行動し、どう感じるか、ストーリーを立てて考えます。例えば建物の入口に「ウェルカムマット」として光の絨毯を敷き、中に入ったと感じさせてあげる、劇場へ通じる通路には、広々と照らされた劇場空間が待っているという期待感を煽るような明かりの置き方をする、ということです。
光の扱い方によって空間の用途も変わります。さんさんと輝く太陽の光は、人を肉体的にも精神的にも活動的にする。そういうとき、運動をするにはふさわしい空間ですが、人と人が深くコミュニケーションをとることは難しい。でも、例えばそこに一本の木があるとします。その木の下のベンチで、葉と葉の間から降り注ぐ木漏れ日を浴びながら、という状況ならば、人は穏やかな気持ちで、深いコミュニケーションをとることが可能です。
僕が目指すのは、そういった人と人の距離感が縮まる空間を、光で作り出すことです。僕が住む調布市には、布多天神社という氏神となる神社があります。昨年12月、「布多天神社あかり計画」を実施しました。鳥居から本殿まで、蝋燭を段階的に置いて光のレイヤーを見せることで奥行きが出て、本殿へといざなう通路が生まれます。それが参拝のストーリーです。本殿には、集まった人たちが自然と触れ合えるよう、落ち着いた明かりを落とし込みました。
幻想的な雰囲気によって心が静まると共に、訪れた地域の人々が場の魅力を再発見することができるあたたかい交流の場、そんな場所になりました。人と人、さらには人と街の距離感が、明かりの設計ひとつで縮まるのです。
キャンドルひとつで、人と人は親密な気持ちになれます。全体が明るいレストランであれば、人はそれぞれ椅子の背にもたれて座っているかもしれません。でも部屋の明かりは最小限にして、机の上にひとつだけキャンドルを置くと、人は自然と前かがみでおしゃべりをするようになり、物理的に相手との距離が縮まります。
僕は2年ほど前に調布市に移り住んだのですが、当時キャンドルで明かりをつくっているレストランが、2店舗ほどありました。そこで、自分で実際にいろいろな店に足を運び、調布駅一帯のレストランで同時にキャンドルによる明かりを置く、「調布キャンドルナイト」を企画しました。毎月月末の決まった日、夜になると調布駅周辺のレストランが、一斉にキャンドルに火をともすのです。
キャンドルがあることで、人と人の距離が縮まります。そこで楽しい時が過ごせたなら、人はその店を気に入り、人と店の距離も縮まります。さらに街のイベントとして行われることで、「その夜調布に行けば、何か楽しいことがやっている」という期待が人々の中に生まれ、人と街の距離も縮まります。僕は、「布多天神社あかり計画」や「調布キャンドルナイト」のように、明かりによって街を元気にする、ということをテーマとして考えています。
調布キャンドルナイトは、それぞれのお店が、それぞれの思いを持ってやっています。僕が考えを押し付けているわけではない。このキャンドルナイトをきっかけに「調光できる機能をつけておけばよかった」など、お店の人が日常の光についても考えるようになってくれました。
いま逗子の街で、ある休憩所の照明計画を地域の人たちで考えようというワークショップを計画しています。自分たちが住む街の明かりについて考え、照明について学び、最終的には自分たちが考案した照明が取りつけられる。関与した人はその休憩所に愛着を持つようになるし、その他の場所の明かりについて考えるきっかけにもなります。そして明かりを軸にして、そこに住む人々が自分たちの街のことを考えるようになれれば、より魅力的な街作りが出来るのだと思っています。
「ブレーン」2012年7月号より