(さいとう・たいち)
SOLSO architectural plant farm 代表。岩手県生まれ。高校生の頃から造園、野菜生産、山野草の採取を学ぶ。SOLSO直営店「BIOTOP NURSERIES」やオリジナルガーデンツールの開発・ガーデンライフを提案するブランド「mondoverde」のディレクター。その他、個人邸の庭、オフィスのレンタルグリーン、ショップや商業施設のグリーン・ディレクションなど、幅広い分野でグリーンに携わっている。
僕が緑をコーディネートするときに考えているのは、人と建築と植物が対等でないといけないということです。例えば建築が際立ちすぎて、人が建築のために住むような状況はよくないし、緑が主張しすぎてもよくない。3つが対等になって初めて空間として成立し、人間らしく住めるようになる。だから、オリジナリティを出すために、調和を損なってしまうような華美なものや、珍しいだけで管理が難しく持続可能でない植物を使うことはしません。
自分の色を出すとしたら、手がける空間にドラマを作ることです。例えば、生い茂った木々を抜けると、突然開けた空間が現れて、日常を忘れて癒されたりする。ただ植物をキレイに植えるだけではなく、そんなふうに、人と空間と植物が合わさることで体験できるストーリーを描きたいと思っています。
そしてそのためには、いろんな知識を持っていなければいけません。植物は、あらゆるものと関係していますよね。例えば服にはコットンが使用されているし、食べ物や薬の多くも植物です。建物も木でつくられることがかつては主流であったみたいに、衣食住あらゆるところに植物があります。
それから現代ではいろんな人が植物を必要としています。建築はもちろん、ファッションや写真、広告もそうです。だから僕の本棚には、とにかくありとあらゆる分野の本があるんです。植物屋だから植物のことだけを知っていればいいのではなく、植物を求めている人の考えや意図を理解し、落とし込んでいきます。
今年5月には、もともとオフィス兼農園だった、川崎市にある2000坪ほどの土地を週末限定のショップとして、「SOLSO FARM」をオープンしました。ここでも重視したのは、鑑賞してもらうことではなく、体験してもらうことです。だからいわゆるモデルガーデンみたいなものは作らずに、代わりに緑の中にブランコや、カフェスペースを作りました。
人が緑に興味を持った時に、お店に来て鑑賞するだけだと、結局インテリア感覚で緑を置くだけで終わってしまう。もっと本質的に、緑から得られる幸福感を伝えたいんです。自然に囲まれた中でブランコに揺られたり、コーヒーを飲んだりすることが、一番幸福で、緑を身近に感じますよね。
モデルガーデンを見て、そこにある気に入った植物を買おうかどうか悩むのではない。まずは自然を体験してもらうことで、人と緑の距離を縮める。その体験をきっかけにして、後は自分のライフスタイルに合った植物を自分で選べばいいと思います。 緑がちょっとしたブームになって、雑誌でも特集が組まれたりするように、情報はたくさんあります。
それに、今は自分で好きなものを選べる時代です。僕が「ここは南向きだから、この植物をおいてください」と言ったりして、その通りにするようなことじゃないと思っています。ここで体験して、自分で感じ、考え、少しずつ取り入れるたらいい。それが最高に気持ちいいし、おしゃれですよね。そのためのきっかけを、この空間で与えることができたらいいなと思っています。
「ブレーン」2013年8月号より