(なかはら・しんいちろう)
1971年、鹿児島県生まれ。ランドスケーププロダクツ代表。オリジナル家具等を扱う「Playmountain」、カフェ「Tas Yard」、 コーヒースタンド「BE A GOOD NEIGHBOR COFFEE KIOSK」、故郷の鹿児島に「Playmountain KAGOSHIMA」、 子供のためのレーベル「CHIGO」を展開。また店舗設計業務、イベントプロデュース/ディレクションを手がける。2012年より「マルヤガーデンズ」(鹿児島)のアドバイザー、「Shibuya Hikarie ShinQs」内のイベントスペース「Craft Bureau」のディレクターに就任。2012年9月に開催される「IMS × Casa BRUTUS みんなでつくる九州案内」のプロデューサーを務める。11月にはアート/プロダクトディレクションを手がけた香りのブランド「M tree」が発売される。
大勢が一緒にいる空間で、その場のみんながある感覚を共有する時ってありますよね。例えば音楽を聴いている時がそうで、その場にいる人にしかわからない独特の空気感があります。あの感覚を共有できる空間をつくりたいと思っているんです。友達の家に行っても、そこにいる人によって場の雰囲気は違うし、もしかしたら出された飲み物一つでも違うかもしれない。その人のためを思って出されたものなら、そう言われなくても場の雰囲気が違う。その時にしか出なかった空気感や景色を誰かと共有する、そんな状況を演出できるモノづくり、場づくりを、お店を通してやっていきたいと思っています。
同じ景色を共有した人同士の関係性は、その前と後で少し違ってきます。例えばそれまで他人同士だったけど、たまたま旅先で出会って、少しの間一緒に旅をした人。その二人の間には、他の人には分からないつながりがあるはずです。
僕は、お店を通して人が作ったもの、人の仕業として素晴らしいものを紹介し、人と人、人と物の間に入ってコミュニケーションを円滑に回すことで、いい景色を作っていきたいと思っているんです。10数年前にランドスケーププロダクツを立ち上げ、家具を扱う「Playmountain」や、カフェ「Tas Yard」など、いろいろなお店を展開し、最近ではイベントを手がけることもあります。そういったお店のプロダクトやイベントを通し、人々がいい景色を共有できるようにしていきたい。
ランドスケーププロダクツという会社の名前はたまたまつけたものなんですが、最近になって、ようやく自分たちの考えが会社の名前に追いついてきたかなと感じています。
5、6年前、僕の本拠地でもある鹿児島にお店をオープンしました。東京でお店をやっていると商品を買う側の人との出会いが多いのですが、田舎だと作り手との出会いがとても多い。お店を通して買い手と作り手、そして作り手と作り手のコミュニケーションが生まれ、それによって作家間のコラボレーションが生まれることもあります。なによりモノづくりする人同士が切磋琢磨し合う関係になり、よりいいものをつくろうという意識が芽生えます。そしてお店を中心にして作り手と買い手の両方へとコミュニティがひろがっていきます。そこでコミュニケーションを生む空間としてのお店の良さを改めて感じました。
近年はインターネットによってWebショップが増加しましたが、かといってリアルなお店が減少しているわけではありません。それはやはり出会うことの楽しさや、実物に触れることの良さをみんなが知っているから。実際にお店に行くのでも、インターネット上にある、お店を評価した星の数を見ていくのと、身近な人に勧められていくのとでは大きく異なります。「あの人から紹介されて」と話すと、そこからコミュニケーションが生まれるし、お店に愛着も生まれます。でも「あのサイトを見て」と話しても、そこからつながりは生まれませんよね。お店というのは、新たなつながりを生むべき場所だと思うんです。
いま面白いなと思うのは、「食」です。食というのは、作り手にとっても買い手にとっても平等に共有できるもの。iPhoneを勝手に作れば当然怒られますが、ナポリタンは誰が作っても訴えられないですよね(笑)。そしていろんな職種の人、種類の人がいても、同じテーブルにつけば皆が同じように食事を楽しむことができる。
毎年9月には、「FOR STOCKISTS EXHIBITION」という、インテリアや雑貨を扱う業者向けの展示会を仲間たちと開催して、今年はそこで何十人もの人が一緒にテーブルにつくような懇親会も行いました。皆がひとつのテーブルで、ひとつの空気を共有している、それはとてもいい景色でした。そういう場づくりには、デザインし過ぎないことも大切だと感じます。すべてをデザインでは解決できないので、時間と忍耐力が必要なこともあります。例えば住宅も、最初にすべての用途を決めきってしまうと、実際に住み始めると窮屈だったりします。場づくりは誰でもできることですが、誰がやっても違う空気が生まれる。同じことをやろうとしても、絶対にできない。そこが面白いと思っています。
「ブレーン」2012年12月号より