レストランやバーといった場は、目的を持って、人々が訪れる場です。装いにも気を配って来られる方が多いと思います。誰かを誘って、あるいは出会いを求めて。ですから僕は、店舗のデザインを施す際には、女性が綺麗に見えるとか、あるいは男性視点なら女性を連れていきたいとか、そういう風に感じてもらうことを常に考えています。ある種、人もインテリアです。空間には、来店者が訪れて初めて完成する。僕らは人と人が出会う舞台を設けているようなもので、人が集まるから空間はパワーを持てるのです。
2008年にオープンした東京・六本木ヒルズの「RIGOLETTO BAR AND GRILL」は人と人が出会う場所として成功していると自負しています。海外からの来客も多く、店内はいつも活気に満ちています。目の端に入っただけでも、場所そのものが迫力を持って飛び込んでくる。そういう場所に集う人を見たり、話を聞いたりすると、自分自身を変えるきっかけにもなると思うんです。周りが身に付けている服やアイテムを見て、自分もカッコよくなろうとか、キレイになろうとか。仕事も頑張りたくなるし、ファッションの勉強もするし、努力しようという気になりますよね。空間は、そうした間接的なコミュニケーションを発生させるツールでもあると感じることが多いです。もちろん場所自体も、着飾って来たくなるような場所に仕上げなくてはなりません。
海外を訪れるとバーなどでは初対面でも「そのバッグ素敵だね」「その服オシャレだね」などと話しかけられることがあります。社交辞令という面も含めて、おしなべて日本人は、見ず知らずの相手にそうやってコミュニケーションを取ることが苦手かもしれません。けれど、見て、感じて、自分なりに理解して取り込む力は優れていると思うんです。会話の内容やファッションも、そうやって落とし込んで自分なりに表現していくものだと思います。
インターネット上のコミュニケーションが普及して、直接会わなくてもやりとりできたり、情報が得られたりするようになりました。僕はFacebookもTwitterもあえて距離を置いているのですが、それは実際に会って話したいから。パソコンや携帯端末の画面では触れ合えないじゃないですか。では、そんな人とどこで会うのか。人と連れ立っていきたくなるような場所をもっと多く生み出したいですね。ネット上に終始してしまうのは、誰かと訪れたい場所がない、というのも原因かもしれません。
いまは店内の様子を事前にインターネットで調べてから来店する方も多いと思います。写真で魅力的に見せて、行ってみたい、と感じてもらうことも大切ですが、やはり実際に訪れたときの驚きを大事にしたい。路面店でファサードがある場合は華やかな内部を見せて雰囲気づくりをしたり、裏路地やビル内の一区画なら、あえて外からは目立たないようにし、ドアを開いた瞬間に、全く別世界があるように見せたり。お金を払って来店するのだからその分特別な雰囲気を求めたいもの。例えば「まるで海外のお店みたい」など、来てよかったと思わせる演出が必要になると思います。
とはいえすべてにお金をかけるのではなくて、深く印象を与えるには、何に予算をかけるかのメリハリが大切です。キッチンはどこか、バーカウンターはどこか、などとゾーニングを進めつつディテールを詰めていくパターンもありますし、最初からそのお店にふさわしいと思えるような、コア・アイデアを得て、それを中心にデザインを進めていく場合もあります。
東京・代官山のメキシカンレストラン、「Hacienda del cielo」のアイコンに据えたのは、パイソン(ニシキヘビ)柄。メキシコの歴史をひもとくと、古代アステカ文明の重要な神として蛇が登場します。メキシコにはニシキヘビがいないことは承知していますが、日本人にとって蛇柄として馴染み深いため、あえてパイソン柄を用いました。近年のファッショントレンドにもなっていることも勘案しています。とぐろを巻いたようなシェードをつくり、シャンデリアを飾りました。
六本木ヒルズにある日本料理店「新(あらた)」の天井を飾るのは、東洲斎写楽の浮世絵「三代目大谷鬼次の江戸兵衛」。海外の方が多い地域ですから、彼らを驚かせたいと設置したもの。2センチメートルほどのクリスタル約3万個を、ピクセルのように用いて描きました。日本の伝統芸術を現代的にアレンジすることで、「Wow!」と言ってもらえたらうれしいですね。
僕は施工し終えればそこまでですが、お店はそこからがスタート。空間とお店事態が一緒に成長していってくれたらと思います。自分が携わったレストランにはしばしば足を運びます。店の片隅に案内してもらって、お客さんが不満を漏らしていないかどうか、耳をそばだてるんです。批判がないと進化しないし、そういう言葉がむしろ励みになりますね。
「ブレーン」2012年1月号より