コミュニケーションが生まれる空間 Vol.10 小野 啓司氏

Creator File

  • センターラインアソシエイツ 松井るみ氏
  • トランジットジェネラルオフィス 岡田光氏
  • BOOK APART運営者 三田修平氏
  • 極地建築家 村上祐資氏
  • ツクルバ 中村真広氏/村上浩輝氏
  • 木村 英智氏
  • 豊嶋 秀樹氏
  • 木村 英智氏
  • SOLSO代表 齊藤 太一氏
  • 構造エンジニア 金田 充弘氏
  • スペースコンポーザー 谷川 じゅんじ氏
  • トラフ建築設計事務所
バックナンバー
  • 中目黒マドレーヌ店主 田中 真治氏
  • フラワーアーティスト CHAJIN氏
  • AuthaGraph代表 鳴川 肇氏
  • 昼寝城 店主 寒川 一氏
  • ランドスケーププロダクツ代表 中原 慎一郎氏
  • スタンダードトレード代表 渡邊 謙一郎氏
  • ブック・コーディネイター 内沼 晋太郎氏
  • 建築家 谷尻 誠氏
  • 茶人 木村 宗慎氏
  • 建築照明デザイナー 矢野 大輔氏
  • 音響演出家 高橋 琢哉氏
  • 一級建築士 中村 拓志氏
  • 建築家 加藤 匡毅氏
  • デザインチーム KEIKO+MANABU
  • 建築設計プロデューサー 小野 啓司氏
  • インテリア・エクステリアデザイナー 佐野 岳士氏
  • 建築家 木下 昌大氏
  • 建築家 猪熊 純氏
  • 大学教授 手塚 貴晴氏
  • 建築家 二俣 公一氏
  • 建築家 梅村 典孝氏
  • 建築家 長岡 勉氏
  • 建築家 平田 晃久氏
  • 建築家 迫 慶一郎氏
小野 啓司氏 小野 啓司氏

(おの・けいじ)

I&S BBDO
大阪芸術大学絵画科を卒業。1982年日交入社。西武鉄道・国土計画グループのレジャー施設やサッポロビールの工場見学者施設のインテリアを手がける。1989年I&S BBDO入社。ジョルジオ・アルマーニほかブランドブティックのインテリアプロデューサーを経て、プライスウォーターハウスクーパーズ、ファーストリテイリングなどオフィスのインテリアを数多く手がけ、現在に至る。

Presented by YKKap

店舗・オフィス設計は広告と一緒

 僕は広告会社I&S BBDOで、建築設計のプロデューサーの立場についています。クライアントと建築家やインテリア・デザイナーとの間を取り持つのが仕事です。

 店舗やオフィスの設計は、訪れる人々に、どのような印象を残したいかを考えるインタラクティブなコミュニケーションであるという点で、広告と根本は同じであると思います。オフィス設計の場合は、「外からどのように見られたいか」を経営者に聞きます。さらに社員とも話をして、彼らが感じている「見え方」を確かめる。往々にしてそこにはギャップがあり、その溝を埋めませんか、と提案するんです。店舗設計なら、外からの見え方は当然、最重要ですね。

 この仕事が面白いのは、各社の経営者と直接仕事ができることです。設計の際は、まず経営者の考えを事細かに汲み取り、100%要望に応えたものをデザイナーとまとめます。その上で、どこでクライアントと“ケンカ”をするかを決めるのです。「ここは、思い切って際立ったデザインにしよう」「そのかわり、この部分は引こう」――デザイナーと侃々諤々のやりとりを経て、意図的にクライアントから2、3の反発があることを想定した案を持っていきます。

 プロジェクト・マネジメント上、予算や工期を厳守するのは当然ですが、あえて数多くのハードルを設けるんです。“あてが外れて”、最初のプランがすんなり通ってしまうこともありますが、その場合は再提出。結果、最初の案に戻ることも少なくないですが、僕はこの工程は必要だと思います。皆で悩む期間を設けると、クライアントもデザイナーも満足度が高まるんです。簡単に決着がつくとありがたみがない。例えば、気に入った商品がすぐ見つかっても、ほかのも見て回りたいのが人情。即座に決めてしまうと、家に帰った後に「もっといいモノがあったのでは…?」と思うものです。

 デザイナーにも必ず、一緒に経営者に会ってもらいます。それもこちらの思いの丈をぶつけるのでなく、聞き役に徹してもらう。デザイナーの意図をかみ砕いてクライアントに通すこともできるかもしれませんが、それではクライアントの中に「説得された」という気持ちが強く残ってしまいます。そうすると施工後に不満が噴き出すおそれがある。僕はコンセプトやイメージも優先順位は高くないと考えています。クライアントの思いに沿うデザインを生みだし、合意を得ることのほうが大切なのです。

オフィスの国外進出が進む?

 経営者はオフィス設計の際、社員の働き方、伸ばしたい社員の能力についても考えを巡らせています。僕がもう一歩踏み込んで尋ねるのは、具体的な社員の働く場面です。社員が静かに集中して仕事に取り組んでいるのか、活発に議論を交わすミーティング風景なのか。それがオフィスの設計に反映され、「思ったとおりだね」と納得を得られれば上々です。

 その上で、社員が実際に「何か変わったな」と感じなければ、リノベーションしても効果がありません。往々にして経営者が課題の上位に挙げるのは「誰が何をしているのかが見えない」ということです。グループリーダーも、オフィスで部下の仕事を可視化したいと言う。一方、現場には「上司の目線が…」という気持ちもある。時には「今日は一日、人目を気にせず仕事したい…」と思うこともあるでしょう。だからカフェのようなスペースを設けたり、ブースを設置する会社もあります。自分の席に縛られて仕事をする必要はありません。経営層・現場共に、どこで働いてもいい環境づくりをしてあげればいいのです。

 どこで働くのかについて、スケールを一段階上げると、震災の影響もあって、東京で働くことにこだわらない経営者が増えました。販路の面では、東京に拠点を置くことは必須でしょうが、本社でなくともいい。IT企業ならばなおさら、東京にオフィスを構える必要は薄れてきました。

 さらに今後のアジア経済は中国が主戦場になりそうですし、日本国内に縛られずに香港や台湾などに本社を置くのもよさそうです。インドのような新興市場を視野に入れると、東南アジアも有力でしょう。

 いずれにしても大切なのは、社員同士が膝を交えて話ができる場を設けることです。アイデアを出し合うには、同じ空気を共有するほうがいい。何より、いざという時に集まれる場があることは、企業への帰属意識を高めることにもつながります。

店員が“戦闘モード”になるインテリア

 アパレル業界の店舗のあり方は、二分化が進んでいます。バブル以降、頑なに「入りづらさ」を守っているのはハイブランド。入店すること自体をステータスとする意図で、外から店内の様子がわからなくてもいいという考え方です。一方、近年登場したファストファッションは、いかにオープンにして入店を促すかという戦略。現在に至るまでに、ポジションを決めかねたブランドがこの両端を行ったり来たりして衰退していくのを多く目にしました。

 ハイブランドの場合、一度入店したならば、いかに長く滞在してもらうかが鍵になります。商品のスペースより、来店者がくつろぐスペースのほうが広いこともままある。回遊してもらうのではなく、休んでいるお客さんの元に、店員が商品を持ってくるスタイルだからです。お茶が飲めたり、マッサージが受けられたりと至れり尽くせりのサービスがなされることも多いですね。

 当然、インテリアもそれに見合ったレベルのものが必要ですが、お客さんに対してはむしろスタッフが決め手になります。商品の価値に納得するのは、結局のところ人対人のコミュニケーションがあってこそ。こればかりはバーチャルの世界では絶対生まれません。インテリアが効果を発揮するのは、店員に対しての面もあるんです。プロ意識を持って接客に臨めるように気分を高めるのも、内装の役割のひとつです。

「ブレーン」2012年2月号より

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avex management serviceのオフィス。

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成田国際空港ANAラウンジ。

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