(てずか・たかはる)
1964年東京生まれ。
87年武蔵工業大学卒業、90年ペンシルバニア大学大学院修了。同年から94年までリチャード・ロジャース・パートナーシップ・ロンドンに勤務。94年に手塚建築企画(当時)を手塚由比と共同で設立。96年から武蔵工業大学専任講師、2009年から東京都市大学教授を務める。
2年後の春の開院を目指して、現在、小児がん患者とその家族のための病院づくりを進めているところです。家と病院とを融合させた施設を目指しています。
小児がんの治療では人体の免疫システムを抑制する必要があるので、その副作用として病気にかかりやすくなってしまう。なので、付き添いの家族と一緒に隔離しなくてはなりませんが、病室も家族用のスペースも狭くて、非常に辛い闘病生活になります。子どもたちに「何がしたい?」と尋ねると「おうちに帰りたい」と言うんです。
「ならば、家を持ってこよう」というのが今回のプロジェクトの主旨です。ちょうど「村」のような空間をつくろうとしています。中心には病院施設があって、それを囲むように病室と家族のための家をセットにして設計しているんです。ただし、完全な個室にするのではなくて、みんなで集まれる場所をところどころに設けています。プライバシーに配慮しながら、患者同士でも常にコミュニケーションを取り続けられるように。人も空間もひとりぼっちにならないようにデザインしようとしています。
空間というのは、立体があって壁に囲まれて、という幾何学的な概念なんです。そうでなくて、場をつくることを目指しています。キャンプファイヤーを想像してください。焚き火を中心に人が集まるでしょう。壁がないのに、その輪から出る・入るといいます。そこには場が生まれています。場というのは、雰囲気や匂いそういうものを含んだ総和であって、空間よりも、もっと体温のある、生きているものです。
コミュニケーションも、そうした場を形成するひとつの要素です。人も空間も、孤立させてしまうと、場が生まれません。人が集まる場をつくるのは、建築において大切な要素のひとつです。人間の生活で用いられる道具は、目的別にいろいろな機能に分けられているけれど、その区分は、後から作られたもの。私は人間の生活はもっとシンプルだと思います。
例えば私は大きなテーブルが好きです。
テーブルが大きいと、大人も子どもも、みんなが常に一緒にいられるんです。同じ場にいると人間は、何かしら話をする。もちろん、それぞれが何か、作業をすることもあるでしょう。勉強をしたり、仕事をしたり。十分な大きさがあれば、それも一緒にできるから、自然と人が集まってきます。
空間も孤立させないほうがいいんです。仲間はずれにされると、空間もぐれてしまう。人間とよく似ています。
「ブレーン」2011年10月号より