(けいこ・ぷらす・まなぶ)
内山敬子と沢瀬学が2005年に設立したデザインチーム。「ピアスから都市計画まで」を掲げ、東京と米シアトルを拠点に活躍する。「大野一雄・舞踏と生命101」会場デザイン、インスタレーション「サントリー美術館オープニング展示 吉岡幸雄祝いの縷」など。「LE CIEL BLEU」「BRIDARIUMMUE」、フランス料理店「TRINITE」など数々のショップデザインやアートワークを手がける。
MANABU(M) オンラインストアでも実際のお店でも、提供する側の「商品を受け取ってほしい」という意図は本質的に変わりません。違いは訪れる人が何を楽しむか。お店に足を運んで購入するということは、商品以外の何かにも対価を支払うということだと思います。
KEIKO(K) 自分にない視点が得られたり、思いもよらなかった体験があったり。アパレルブランドのお店であれば、ディスプレイやコーディネート、店員さんの提案や装いもヒントになります。「人に会いにいく」感覚に近いのかもしれません。
M Webでもスタッフが常駐すれば、変わってくるのだろうけど。実店舗でもオンラインストアでも、そのデザインはもっと個性を強めていくのでしょう。
K 商業デザインでいつも大切にしているのは、訪れた方に新しい発見があること。そして商品を探してみつけるプロセスを楽しめることです。店までの過程や、店頭にたどり着いた際の驚きも大切。「DIESEL SHIBUYA」(東京都)で2011年8月から、約1年間担当する「ホームコレクション・インスタレーション・プロジェクト」の場合は、最初にディーゼルの家具の素敵さを生活空間の中で体感できる店内展示にしようと考えました。この時点では「MAGIC TENT」のテーマは決めていなかった。
M まず1/20のスケールで商品の模型を作り、ディテールやクオリティの把握から始めました。ディーゼルの家具なのだから「服を試着するように家具もフィッティングできる空間はどうか」と着想し、商品がある空間で自分がどう映るのかを見られるように大きな鏡を置いたんです。
K スツールも合わせ鏡の中に置いて一度に8方向から見られる。
M 鏡には、映り込んだ姿に非日常感が味わえるように、サーカスのテントをモチーフにデザインを施しました。サーカスの要素は、変化し続けるコーディネートと空間のディテール部分にもあしらっています。そうした結果の集合として、「MAGIC TENT」というネーミングになりました。
K 浮かんだシーンを並べ、物語を作った後に題名を付ける感覚でしょうか。
M 私たちは空間を固定して捉えるのでなく、小説や映画のように流動的で楽しいデザインにしたいんです。
K そごう横浜店と西武池袋本店の化粧室の入口を改修するプロジェクトに参加させていただいた際にも、シーンのつながりを意識しました。
M 一般的にデパートは、ショッピングエリアから化粧室に向かっていくと段々「裏手」のようなシーンに移り変わりやすい。化粧室がうらぶれた印象では、せっかくお買物に来て高まった気分が覚めてしまいます。ですから、たどり着いた時に素敵な設えが出迎える化粧室をデザインして、清潔感と心地よさのあるシーンを作り出したいと考えました。
K アートディレクター 廣村正彰さん総指揮の西武池袋大規模改修プロジェクトで、その一員として休憩スペースのいすをデザインしたときもそう。お買い物中のシーンの連続性を考えたんです。デパートでのショッピングをハイキングになぞらえて、ちょうど花に蝶がとまって休むように、「花と一休み」というテーマにしました。
M エスカレーターで各階へ移動してくると、ちょっと不思議な立体が視界に入ってくる。「何かな」と近寄ると、老若男女、国籍の別なく誰でもわかる、花や蝶、ハートをモチーフにした休憩スペースになっています。
K デザインは一律ではなく、各階の雰囲気に合わせていて。異なる柄の効果によって、その場所が記憶に残る、再び戻りたくなる場所になってくれたらいいですね。
「ブレーン」2012年3月号より