東京理科大学建築学科を卒業した石畠吉一、水野義人、三谷健太郎、角田大輔、多田直人、穂積雄平による活動。平日、メンバーはそれぞれ異なる企業の異なる職能で仕事に従事しており、いえつくは平日夜や週末に集まってプロジェクトを進める。見た目や形だけではなく、そこで起こる活動や人と人の関係性も含め、企業活動では触れにくいような、建築の少し内側や少し外側の領域もデザインの対象としている。
週末に建築活動をおこなう「いえつく」は、同じ大学の建築学科を卒業した6人の友人によるプロジェクト。2005年に、メンバーである石畠吉一さんの家を設計したことをきっかけに、その後美容室やインドネシア バリ島の住宅など、6つの物件を手がけてきた。
すべてのプロジェクトで一貫しているのは「建築の、ちょっと外側もデザインする」こと。メンバーでありながら、最初のプロジェクトのクライアントでもあった石畠さんは「ビジネスとしては、クライアントと建築業者では、当然クライアントが立場が上なので、『こうしたい』と言われたら、せざるを得ないわけです。でも本来ものをつくるということは、クリエイターとクライアントが対等であることによって、良いものができるのだと思っています。だからとにかく対等な関係でやってみよう、と思って始まったのがいえつくなんです」と話す。
対等であるということは、「ものを言う」ということであり、おせっかいをするということ。つまり、建築物のみでなく、その家を介して行われる人づき合いや、暮らしのあり方を意識して、設計を行っている。
例えば2008年にはバリ島へ移住し、そのまま永住することを考えている日本人夫婦の住宅を設計したが、あえて数年に1度茅を交換する必要のあるアランアランという屋根材を提案した。「もともとマンション暮らしだったこともあり、バリ特有のおおらかな雰囲気に馴染めるかという心配もありました。でも現地の人々と仲良くなり、うまくコミュニティへ入らないと長く暮らすことは難しい。そこで、メンテナンスの機会を通して現地の職人さんたちと仲良くなってもらおうと考えたんです。メンテフリーな家なんてバリの文化に合わないし、それだとバリへ住む意味もないと思ったんです」とメンバーの水野義人さんは話す。
「言いたいことを言う」ために、いえつくのすべてのプロジェクトは、無償で行われている。あくまで理想を実現するたに行っていることであり、ビジネスになった途端、成立しなくなるからだ。
2010年にはメンバーである角田大輔さんの、東京・杉並区にある家を手がけた。その際のテーマは「路地との向き合い方を設計する」ことだ。家を建てる予定の土地に面した、狭い路地が気に入ったという角田さん。そこでいえつくメンバーが取り組んだのが、建設予定の土地にプロフィールの書かれた看板を置いたり、建設中の工事現場にかけられた養生シートへ絵馬をぶら下げ、通りがかる人へ自由にメッセージを書いたりと、建設前から近所に住む人とコミュニケーションをとり、土地へ根づいていくこと。
そうした取り組みの結果として、同じ路地にあるファブリケーションの店舗から建設のための素材を安く提供してもらうといった関係性も築かれた。
「ビジネスとしての建築は、『いかに効率的に、無駄なくやるか』という思考に支配されています。でも本当は、『この土地に住むことで、どんな豊かな暮らしができるだろうか』という考えから出発してもいい」と水野さん。いえつくのプロジェクトによって理想的な家づくりを実現し、その小さな成功体験を少しずつ広めていく。そうして社会が徐々に豊かになることを目指している。
「ブレーン」2013年9月号より