コミュニケーションが生まれる空間 Vol.12 加藤 匡毅氏

Creator File

  • センターラインアソシエイツ 松井るみ氏
  • トランジットジェネラルオフィス 岡田光氏
  • BOOK APART運営者 三田修平氏
  • 極地建築家 村上祐資氏
  • ツクルバ 中村真広氏/村上浩輝氏
  • 木村 英智氏
  • 豊嶋 秀樹氏
  • 木村 英智氏
  • SOLSO代表 齊藤 太一氏
  • 構造エンジニア 金田 充弘氏
  • スペースコンポーザー 谷川 じゅんじ氏
  • トラフ建築設計事務所
バックナンバー
  • 中目黒マドレーヌ店主 田中 真治氏
  • フラワーアーティスト CHAJIN氏
  • AuthaGraph代表 鳴川 肇氏
  • 昼寝城 店主 寒川 一氏
  • ランドスケーププロダクツ代表 中原 慎一郎氏
  • スタンダードトレード代表 渡邊 謙一郎氏
  • ブック・コーディネイター 内沼 晋太郎氏
  • 建築家 谷尻 誠氏
  • 茶人 木村 宗慎氏
  • 建築照明デザイナー 矢野 大輔氏
  • 音響演出家 高橋 琢哉氏
  • 一級建築士 中村 拓志氏
  • 建築家 加藤 匡毅氏
  • デザインチーム KEIKO+MANABU
  • 建築設計プロデューサー 小野 啓司氏
  • インテリア・エクステリアデザイナー 佐野 岳士氏
  • 建築家 木下 昌大氏
  • 建築家 猪熊 純氏
  • 大学教授 手塚 貴晴氏
  • 建築家 二俣 公一氏
  • 建築家 梅村 典孝氏
  • 建築家 長岡 勉氏
  • 建築家 平田 晃久氏
  • 建築家 迫 慶一郎氏
加藤 匡毅氏 加藤 匡毅氏

(かとう・まさき)

デザイナー/建築家。1973年大阪府茨木市生まれ。その後横浜市金沢区で幼少期を過ごし、新造された都市計画に影響を受ける。1995年工学院大学建築学科卒。96年隈研吾建築都市設計事務所を経て、99年IDÈE入社。2004年GEOGRAPH共同設立。オフィス、店舗、住宅、海の家などの建築、内装、家具、グラフィックのデザインや三菱地所が主催するアートプロジェクトのデザインディレクションに携わる。08年「宇宙エレベーター デザインコンペ」最優秀賞・特別賞受賞、09年グッドデザイン賞受賞。2012年春より個人名義にて活動を開始。

Presented by YKKap

「違い」を楽しめるデザイン

 相手との違いを感じるから、人と人の間にコミュニケーションが生まれる、それは空間やプロダクトと人の間でも同じです。人間同士、お互いの違いについて、「なぜだろう?」と感じます。皆、わからないから伝えたり、聞いたりし続けてきた。摩擦を避けて、何でも「はい、わかりました」などと言っていたら、コミュニケーションが止まってしまいます。たまにはケンカになることもあるでしょう。確かにわかっていることだけで暮らしていくほうが楽です。けれどそこからは何も生まれません。

 空間デザインやプロダクトデザインをする際には、クライアントが持っているほかとの「違い」、独自の個性が感じられるデザインを目指しています。その空間を訪れたり、プロダクトを手にとったりして、それぞれとのコミュニケーションを促したいからです。そのコミュニケーションの過程で「違い」を理解してもらえて、受け手と同化するデザインがいいですね。

 そう考えたきっかけは「軌道(宇宙)エレベーター」のデザインコンペに参加したことでした。「軌道エレベーター」は、いわば地球から宇宙空間までをつなぐ線路で、その乗り込み口は駅。まだ実現は難しいのですが、いまも研究が続いています。

 「軌道エレベーター」は全く新しい価値を持つもののはず。100年先、いよいよ登場したときに、人々がこれまでとの「違い」をどう受け入れ、どう変化させていくのかを想像したんです。そこから普段の仕事でも「どれくらい先を見て、いまの違いを表現するか」を考えるようになりました。

 ソーシャルメディアもいま、新奇性のあるものとして取り上げられている印象がありますが、次第にその「違い」も消えていくはず。僕は人間が手に入れた「超能力」のようなものだととらえています。「あの人はいま、何をしているんだろう」と気になったら、知ることができる。「Aさんがいま、あのビストロにいるようだから、ちょっと行ってみようかな」などと。

 「ドラえもん」に、「どこでもドア」という、望む場所に一瞬で行ける道具が登場しますよね。けれど、ドラえもんやのび太は、話しながら歩くことがほとんどじゃないですか。しずかちゃんやジャイアン、スネ夫がいる空き地まで、歩いて行く。人は結局、どこかで会ったり、食事をしたりするし、そこまでの道中も必要なものではないでしょうか。

場面がつながって大きな空間になる

 集まる人が違えば、当然生活様式が異なり、結果として空間にも違いが出てきます。IDEEに在籍していた当時、インドネシア・バリ島に数カ月おきに滞在して、現地で家具をデザインするプロジェクトに携わっていました。毎回1カ月ほど暮らすのですが、東京で慌ただしく根を詰めて仕事するのとは、全く違う時間が流れている。人々が大切にすることも異なります。天気が悪いから今日は仕事をしないといったことも平気であります。一方で、彼らは神さまや宇宙を大事にしている。僕自身は精神的なものには疎いのですが、彼らなりの考え方があることは理解できます。

 行ったり来たりだから、なおさら違いがわかって、よかったのかもしれません。一緒においしいご飯を食べたり、お酒を飲んだり。空気や同じ時間を共有していると、集まった人と交わしたコミュニケーションは深く心に残りますよね。

 プロダクトでも、その背景に空間や時間を持っていると考えています。「バードエコー」という野鳥を呼ぶ木のおもちゃをデザインした際に、そんなことを感じたんです。素材は元々、どこかの森や林で生きていたもの。それが人のアイデアや手によって、また違う形になる。それを見た人が「いいね!」を押す代わりに、買ってくれる。それを、どこかの森や林に持っていって、鳥を呼んでみたり、集まった人同士でコミュニケーションを取ったり…。

 木として過ごした森と、おもちゃになって訪れる森はきっと違うのですが、僕の中では、大きな連なりを感じました。そして、シーンの合間にコミュニケーションが生まれていく。

 軌道エレベーターも、そうした一篇のシーンの連続なのでしょうし、人が街の中で、家や仕事場、食事をするところ、遊ぶ場所をつないでいくのも、場面のつながりのようです。

 空間やプロダクト、一つひとつの点を人がつないでいってできる、大きな空間的な広がりを形作っていく。そうしたあり方も面白いですね。

「ブレーン」2012年4月号より

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軌道エレベーターのある100年後。

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博報堂ケトルのオフィス。

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「THE TOKYO ART BOOK FAIR」

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鳥と会話する玩具「BIRD ECHO」。

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