コミュニケーションが生まれる空間 Vol.4 梅村 典孝氏

Creator File

  • センターラインアソシエイツ 松井るみ氏
  • トランジットジェネラルオフィス 岡田光氏
  • BOOK APART運営者 三田修平氏
  • 極地建築家 村上祐資氏
  • ツクルバ 中村真広氏/村上浩輝氏
  • 木村 英智氏
  • 豊嶋 秀樹氏
  • 木村 英智氏
  • SOLSO代表 齊藤 太一氏
  • 構造エンジニア 金田 充弘氏
  • スペースコンポーザー 谷川 じゅんじ氏
  • トラフ建築設計事務所
バックナンバー
  • 中目黒マドレーヌ店主 田中 真治氏
  • フラワーアーティスト CHAJIN氏
  • AuthaGraph代表 鳴川 肇氏
  • 昼寝城 店主 寒川 一氏
  • ランドスケーププロダクツ代表 中原 慎一郎氏
  • スタンダードトレード代表 渡邊 謙一郎氏
  • ブック・コーディネイター 内沼 晋太郎氏
  • 建築家 谷尻 誠氏
  • 茶人 木村 宗慎氏
  • 建築照明デザイナー 矢野 大輔氏
  • 音響演出家 高橋 琢哉氏
  • 一級建築士 中村 拓志氏
  • 建築家 加藤 匡毅氏
  • デザインチーム KEIKO+MANABU
  • 建築設計プロデューサー 小野 啓司氏
  • インテリア・エクステリアデザイナー 佐野 岳士氏
  • 建築家 木下 昌大氏
  • 建築家 猪熊 純氏
  • 大学教授 手塚 貴晴氏
  • 建築家 二俣 公一氏
  • 建築家 梅村 典孝氏
  • 建築家 長岡 勉氏
  • 建築家 平田 晃久氏
  • 建築家 迫 慶一郎氏
梅村 典孝氏 梅村 典孝氏

(うめむら・のりたか)

1976年名古屋市生まれ。
2000年愛知県立芸術大学デザイン科卒業。2000年日建スペースデザイン勤務を経て、04年乃村工藝社小坂ルームに勤務。07年にGRAMMEを設立。

Presented by YKKap

会話が自然に始まる仕掛け

 目的やシチュエーションに合わせ、必要なコミュニケーションが自然に生まれるような空間を第一に考えています。空間が潜在的に持つ魅力が自然に生きるよう配慮した例では、東京・渋谷にある美容室「bloc de zenith」があります。元は古い3階建ての一軒家で、来るたびに違う表情を見せて楽しめるよう、あえてフロアごとに異なる装いとしました。1階は動物ものをアクセントにしつつ、重厚感のある雰囲気に、2階は工業製品のストイックな印象とエレガントさの調和を目指しました。3階は乾いた質感のアンティークが映える空間にしています。

 各フロアの部屋は、あえて元の間取りを生かしてデザインしています。例えば、1階の半個室のカットスペースは、前はバスルームだった場所。開口部の曲線に合わせてステンドグラスを取り付けたり、既存のタイルを剥がしたままの剥き出しの壁を使ったりと、その空間の持つ魅力を自然に引出すようにしました。

 美容室は、自分の装いが変わるプライベートな性質を持つ場所でもあるので、ほかの来店者とミラー越しに視線が重ならないようにするなど、居心地の良さを生み出す工夫も必要でした。

 スタッフがストレスなくカットできるような配慮も重ねています。椅子を例に挙げると、デザインはバラバラなのですが、すべて背もたれの厚みや、脚の高さなどが、カットしやすいかどうかを基準に選んでいます。特に背もたれには髪がかかることが多いので、切り方に影響するんです。店内の動線も同様で、スタッフが機能的に動けるように考慮しました。仕事がスムーズであるほど会話するための余裕ができますし、スタッフがリラックスしているかどうかは、カットされている側の気分にも影響すると思うんです。

 店内で働く人の雰囲気と、空間の持つイメージのバランスも重要ですね。必ずしも店と空間のイメージが、全く一致している必要はないと思っています。格調高い店なのに、スタッフは少しラフな印象で明るいなど。「bloc」の場合は、スタッフのイメージとお店を合わせていますが、あまりにも同じ印象を抱かせないようには配慮しています。全く同じだと、意図的過ぎて、むしろ違和感を生んでしまうと思うんです。

 押し付けがましさを感じさせないコミュニケーションのためには調度品、内装、空間、スタッフの持つ魅力が自然に調和するようなデザインが必要だと考えています。

店と客の出会いを、どう演出するか

 コミュニケーションのきっかけを随所にちりばめておくことは、空間をデザインする上で大切なことのひとつです。

 例えば路面店なら、ファサードが来店者と店舗との出会いの場になります。多くの人に訪れてもらうことが目的であれば入り口の存在感を抑え、オープンな雰囲気を出すことが、手法のひとつになるでしょう。

 一方で、あえて入りづらくする場合もあります。常連客が中心の店舗では入店すること自体が特別な行為なのだと感じさせることが求められるからです。店舗のことを既に知っていて、ある種の期待を抱いて来店する場合もあります。その場合は、その先入観を超えるような、意外なしかけを施すこともあるでしょう。

 通りから少し入ったところに店があるのであれば、入り口に至るまでのアプローチから、店舗との接触は始まります。店と客がどのように出会うのか。それを考えるのも店舗デザインの醍醐味です。いずれにせよ、コミュニケーションを取りやすくするために、第一印象が重要になるのは、人間も店舗も変わらないのではないでしょうか。

 東京・神宮前にある靴屋、「GALLERY OF AUTHENTIC」は、入り口にちょっとした仕掛けを施しています。5つのドアを並べているのですが、実際に開くのは、そのうち2つだけ。さらに、2つのうち1つは、“隣の”ドアのレバーを押し下げないと開かないようになっています。一度訪れた来店者は、「入り方を知っている」という特別な感覚を得られますし、初めての方は、このギミックをきっかけに、コミュニケーションを取ることができます。もし、とまどうことがあれば、すぐ対応できるようにもなっています。

 「GALLERY OF AUTHENTIC」は、靴職人の竹ケ原敏之介さんが手がけるブランドの旗艦店です。竹ケ原さんはイギリスの靴メーカーでデザインを手がけた経歴の持ち主です。店舗でも彼が靴に込めた意図や製品が持つ世界を、丁寧に伝えたいと考え、来店者が落ち着いて商品の説明を聞けるよう、密度の濃いコミュニケーションが取れる空間を目指しました。

 ポイントになっているのは敷地面積10坪ほどの店内で、およそ3分の1を占める大きさのカウンターです。一から設計したカウンターで、竹ケ原さんが製作した作品から型どったスタッズのモチーフをあしらっています。機能面からみると必要以上に大きいのですが、その存在感は、“応対する”という姿勢を表すアイコンにもなっています。

 内装はモルタル、木、真ちゅうといった素材そのままの質感が出るようにしています。これは手の込んだ製品がより浮かび上がるようにするためです。こうした対比関係も、店が持つメッセージを明確にするための一つの手法だと思います。

「ブレーン」2011年8月号より

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「bloc de zenith」のウェイティングルーム。

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「bloc」2Fのカットフロア。

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元バスルームのカットスペース。

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壁の色合いや配管をそのまま生かしている。

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「GALLERY OF AUTHENTIC」のファサード。

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木・モルタル・真ちゅうの素材を生かした内装と、手の込んだ商品のコントラストが映える店内。

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