1971 年大阪生まれ。91 年サンフランシスコ・アート・インスティチュート卒業。 01年チェルシー・カレッジ・オブ・アート・デザイン修了。graf の設立メンバーの一人で、09年9月以降はgm projectsとして活動開始。最近では「押忍!手芸部と豊嶋秀樹」として金沢21世紀美術館で個展などのコラボレーション、「マンガ新次元」展では空間構成を担当。「岩木遠足」や「森をひらくこと、T.O.D.A.」ではディレクターを担当している。2013年より福岡市在住。
展覧会や店舗、イベントスペースなど、さまざまな空間づくりに携わる中で常々思っているのは「目的設定をせずにつくる」ことが、僕にとっては重要だということです。
そもそも僕が空間づくりに仕事として関わるようになったのは、大阪でデザイン活動などを行うgrafを立ち上げた後、graf media gmという名で空間運営を始めてからです。これは空間自体をメディアにして、アートやデザインの展示から音楽イベントなどを行う場なんですね。だから最初から、特定の目的に特化した場ではなくて、そこに関わる人によって変化する場をつくることが、僕にとっては大切なんだと思います。
もうひとつ重要なのは「ここにいるメンバーで何かをやる」ことです。grafも何かひとつの目的があってメンバーが集まったわけではなくて、先に飲み仲間というか、友達のような関係でメンバーがいた。それで「このメンバーで何かできるんじゃないか」と思って始まったんです。
それで皆が集まる秘密基地のような場が欲しいよねという話になって場所を借りたんですが、オープンするまでの数カ月は、夜な夜な皆で集まって、空間づくりをやっていた。そのとき、例えば「僕は室内のデザインをやるよ」とか、「まかないをつくるよ」とか、それぞれができることをやっていた。こういう空間にしようという目的があって、作業を分担してやるのとは逆で、メンバーそれぞれができることをやり、その総体として空間ができあがったんです。
昨年秋には栃木県の那須塩原で「森をひらくこと、 T.O.D.A」というプロジェクトがオープンしました。森のオーナーである戸田香代子さんと、あるアートプロジェクトで知り合ったとき「この森をひらかれたものにして、活性化させたい」という話を聞きました。そこで僕が考えたのは、何か一つのイベントや場をつくることで「森をひらく」ことを達成するのではなく、ここを「森をひらく」ということを皆で考える場にしようということです。
いまはイベントなど多目的に使用できるOPEN PLACEと、飲食できるKITCHEN PLACEがあります。春には美術作家 佐々木愛さんの作品展示やワークショップを開催したり、秋には写真家 津田直さんの写真展も予定しています。いろんな人が関わり、関わる人によって場所の意味や目的が変化する。そうして皆で森のあり方を考えていけたらいいと思います。
いま新たに宿泊できるNEST PLACEをつくっているのですが、そこではあえて水道をつけないでおこうかというアイデアもあります。ここには井戸があるので、井戸へ水を汲みに行って、使ってもらう。つまり完結した場としてつくるのではなくて、そうやって森に能動的にかかわってもらうことで、場として成立するようにしたいなと思うんです。
僕がつくる空間は、建築物をつくることとは逆なのかもしれません。通常の建築はまずゴールである設計図を描き、そこから逆算してつくっていきます。でも僕はスタート地点から始めて行き着いたところをゴールと考えます。なんとなく方向性は見えているけど、どうなるかは自分でもわからない。もしそれで思っていたのと違う場所にたどり着いても、それはそれでいいなと思うんです。
「ブレーン」2013年10月号より