(うちぬま・しんたろう)
1980年生まれ。numabooks代表。ブック・コーディネイター、クリエイティブ・ディレクター。著書に『本の未来をつくる仕事/仕事の未来をつくる本』(朝日新聞出版)がある。7月、下北沢に本屋「B&B」を、博報堂ケトルと協業でオープン。
http://numabooks.com
本屋におけるコミュニケーションというのは大きく分けて3つあると思います。本と本、本と人、人と人、この3つのコミュケーションです。まず本と本のコミュニケーションですが、これは本をどういう文脈で並べるかということです。大型書店では、文庫は文庫だけの棚に入っており、その中で五十音順の著者別に並んでいるのが一般的です。ジャンルや著者ごとに分類して陳列されており、どこにどの本があるか、検索に耐えうるように並べられるわけです。
僕らがB&Bでつくろうとしているのは、ある本の隣に特定の本を並べることで、そこに文脈が生まれるような棚です。その文脈が見る人の興味を引きつけます。「この本の隣にどの本を置くと面白いだろうか」と、棚づくりする人は常に考えているわけです。本棚に文脈が生まれるように、本と本をコミュニケーションさせるんです。
次に、本と人とのコミュニケーションがあります。それは人に、本棚から何かを感じてもらったり、本を手にとってもらったりするということです。まずは僕らが、手にとって欲しいと思える本を揃えることが大前提。その上で先程の文脈を作ったり、音楽や内装も含め、本と人との間にある全てに気を配ったりすることで、コミュニケーションを促します。
最後に、人と人のコミュニケーションがありますが、B&Bでは毎晩イベントを開催しています。それによって、あそこに行けば何か面白いことがあるかも、と町の人たちが考えるようになります。本屋は、何げなく立ち寄った人が、何かひとつのものを持ち帰ることができる場所、町で暮らす人たちの、知的好奇心の渦の中心のような存在であるべきだと、思っています。
知的好奇心の渦の中心となるためには、目的を持った人だけではなく、目的もなく人々が訪れることのできる場所でなくてはいけません。特定の本がほしいと思っている人は、インターネット書店で注文するか、検索性に優れた大型書店を訪れます。町の本屋というのはそうではなく、「何か面白いことないかな」とか、「最近こんなことに興味あるけど、それに関連したものがないかな」といったぼんやりとした考えで訪れたとき、面白いものを持ち帰れる場所であるべきなんです。「本当は別のことに興味があったけど、棚を見ていたら新たに興味を持てる本を発見した」など、偶然の出会いを演出する空間です。
B&Bではそのために、さまざまな工夫を施しています。まず本と本のコミュニケーションにおいて、魅力的な本棚をつくるということが基本です。そのうえで本と人のコミュニケーションが円滑になるように、B&Bではビールを提供しています。ビールを飲んで、ほろ酔い気分で本棚を眺めていると、普段とは違う本が欲しくなったりするかもしれません。もちろんビールは本と人だけでなく、人と人のコミュニケーションの潤滑油としても機能します。また毎晩行うイベントでは本と関わりのある話題を出し、それがフックとなって本への興味を引き起こします。“毎晩”行うということが、「あそこに行けば何か面白いことがあるかも」と思ってもらうために重要ではないかと考えています。
それらはすべて、一度つくったら終わりというものではありません。毎日来る人のために、毎日発見があるようにしなければならない。本棚の文脈づくりも、イベントも、僕はやればやるほど深みが増していくものだと考えています。そうやって少しずつ町の人々に認識され、町に根づいていきたいと思います。
「ブレーン」2012年10月号より