(おかだ・ひかる)
外資系ホテルを経て2003年トランジットジェネラルオフィスに入社、執行役員に就任。
「クラスカ」「堂島ホテル」のプロジェクトマネージメント&オペレーションマネージメント、羽田空港JALラウンジ、JR東日本リゾート列車「TOHOKU EMOTIONなどのプロデュース&プロジェクトマネージメント業務を担当。
僕はもともと外資系のホテルに勤務したのですが、外国のホテルというのはソーシャル化が進んでいます。これはロビー・ソーシャライジングと呼ばれおり、ロビーを開かれた社交の場にし、さまざまなコミュニケーションの生まれる空間にしようというものです。我々が空間を作る際にも、このように「人々の交流が生まれる空間にしたい」という要望をいただくことがありますが、もともと日本人は人と積極的に話す人種ではありませんから、日本で成立させるのは非常に難しいんですね。そこで、空間やインテリアだけでなく、その先の運営の部分で工夫する必要があります。
まず大切なのは、いきなりお客さん同士の交流を生もうとするのではなく、まずお客さんとオペレーターの交流を生むこと。例えば外国人はホテルのコンシェルジュに対し、レストランや航空券の予約は当たり前、ときには仕事の秘書のようなことまで依頼します。一方で日本人は、せいぜい地図をくださいとか、おすすめのレストランを教えてくださいと言う程度。つまり交流を生むには、かなり運営側が作為を持って取り組んでいかないといけないんです。
僕が依然手がけたホテル「CLASKA」では、ヨガや水タイプといった、A~Zまでの頭文字で紐づけた「裏メニュー」を用意しました。それをお客さんに紹介し、積極的に利用してもらう。そこにコミュニケーションが生まれたら、「この人はこういう人なんだ」とプロフィールが出来上がります。それによって、新しい提案ができるようになるし、何かの際に他のお客さんに紹介することもできるようになります。
こうしたツールを作ることは、とても有効な手段です。よくレストランでも、ウエイターやシェフが「お料理はいかがでしたか?」と声をかけたりしますよね。でも結局当たり障りのない言葉のやり取りで終わってしまいがちです。でもそこに何かツールがあると、状況は変わります。
昨年10月に運航開始した東北のレストラン列車「TOHOKU EMOTION」では、コンセプトブックやお土産物を用意し、それらを乗客のもとへ持っていく際に、それぞれの開発ストーリーや裏話を話すんです。そうして列車そのもののコンセプトや世界観を聞いてもらい、交流した上で、「ところでお料理いかがでしたか?」と聞くと、そこには意味のある会話が生まれます。
それらのツールを活用して縦方向の交流をまずはつくり出し、それを横方向へ展開していく。そうした運営を行うことで初めて、コミュニケーションが生まれる空間は成立するんだと思います。
「ブレーン」2014年3月号より