(たなか・しんじ)
シトロエン2CVの自家焙煎エスプレッソコーヒー屋台「中目黒マドレーヌ」店主。2004年9月11日、旧山手通沿い西郷山公園付近の路上にて開店。05年11月、中目黒みどり橋駐車場に移転、現在に至る。
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87年式のシトロエン 2CVでコーヒーの移動販売を初めてから、今年でもう9年目を迎えます。それまではアパレルメーカーでパタンナーの仕事をしていたんですが、趣味として自分でコーヒーを焙煎していたので、家に焙煎機やエスプレッソマシーンがもともとあったんです。それで何か始めようと考えた時、自然とコーヒーをやろうと考え、普通じゃ面白くないなと思って、これもすでに持っていたシトロエンを改造して機械を積み込み、店舗代わりにしたんです。
中目黒という場所を選んだのは、ここが、あまり人通りは多くないけど、独特の雰囲気を持っているから。営業開始して数カ月間は、今の場所から近い公園の中で営業していたんですが、どうも違法だったようなんです。場所を変えざるを得なくなったとき、その数カ月のうちに通ってくれるようになっていたお客さんが、今の場所を貸してくれることになったんです。だから営業道具はすべて最初から持っている物ばかりで、場所も自分で選んだわけではないので、実は何かに強くこだわっているわけではないんです。あるとしたら、あまり儲けようとか考えず自然体でやることでしょうか。
急かされず、自分なりに丁寧な仕事ができるよう、車には「お待たせいたします」という札をかけています。そういう態度でいると、自然とやってくるお客さんも、ちょっと面倒くさいことが好きな人や、時計とかカメラが趣味の面倒くさいタイプの人が多くなるんです(笑)。こんな空間にしたいという強い思いがあったわけではないですが、ただただ自然体でいることで、自分にとってちょうどいい距離感のコミュニケーションがおこなわれる空間に、自然となったと思います。
土日祝日は基本的に中目黒で営業しているんですが、それ以外は、依頼があればイベントやCMの現場に行って営業をしています。個人の誕生日パーティーへ呼ばれることもあります。中目黒で営業しているときは、どちらかというと気を抜いた自然な状態でいるのですが、CM現場はそうはいきません。撮影中は誰も来ないので待ち時間も長いのですが、その分休憩になると、途端に数十人がワーッとやってくる。今年1月にも、CM撮影の現場で10日間入りっぱなしということがあったのですが、さすがに10日あると飽きられてしまうのではと、日によってメニューを入れ替えたりしました。それから疲れてくるとコーヒーなんて飲みたくなくなると思うので、生絞りのフルーツジュースにしたりといろんな工夫をし、大変ですが新鮮な体験でもありました。
時には兵庫や青森など、他県へ呼ばれていくこともあります。どこへ行っても、このシトロエンがあればそこが自分の店舗空間になる。でもそこで生まれるコミュニケーションはまったく別物で、工夫も必要です。どんな状況でも変わらないのは、コーヒーの味だけです。
「ブレーン」2013年4月号より